ドラフトは上位選手だけが華ではない。プロに入ってしまえばドラフト上位も下位も関係ない。ただ実力でのし上がっていくしかない。
むしろドラフト下位の方が面白い選手がいたりする。
どこか一芸に秀でているというか、欠点はあるけれどもそれを補う長所がある選手。チーム内で不足しているピースを埋めるのに適していると思われる、ピンポイントを狙った補強。粗削りだけれど将来性豊かな高校生。様々な宝たちがドラフト下位にいるのだ。
「ドラフト下位だからって馬鹿にしないでちょうだいよね!」
大きな瞳をらんらんと光らせ、結乃は迫ってくる。
「いや別に馬鹿になんかしていないし、そもそも何も喋ってないし!?」
慌てて首を横に振る理衣。
部屋で勉強をしていたら足音も荒く結乃がやってきて、どうしたのかと理衣が問う前に先ほどのようなことを言ってきたのだ。
「そう。ネットでそんなこという輩がいたから、ついね」
「ネット内での発言はあまり気にしない方がいいよ」
「分かっているわよ、だからネットの発言には反応せず、こうして理衣ちゃんに言いに来たのよ」
理不尽なと思ったが、どうせ勉強も休憩しようと思っていたところだしとペンを置いて椅子の向きを変える理衣。
結乃も勝手知ったる理衣の部屋、ベッドに腰をおろしてクッションを抱える。
「ドラフト下位はね、宝の山なのよ。考えてもみなさいよ、2017年の首位打者、“ハマのプーさん”こと宮崎はドラフト6位! セットアッパーの三上は4位、中継ぎで活躍した砂田は育成からの這い上がり、そういう選手が沢山いるのよ」
「へぇ、ドラフトで下位でも有名な選手は多いんだ」
「そうそう、今年もドラフト5位の櫻井くんは良いわよね。今は中継ぎで投げているけれど、先発タイプとしてじっくり2軍で育てて欲しいわね。いずれは1軍で、二刀流として姿を見せてくれれば……でも今年、左腕の中継ぎの調子が悪かったら1軍デビューあるかもね。無理して壊さないようにしてくれれば良いのだけど」
応援している選手が怪我してしまうほど切ないことはない。特にそれが投げすぎ、無理させ過ぎの中継ぎ投手だと尚更である。
「加賀さんや大原さんのように球速、球威を失っていく姿を見ていくのはしのびないものね……」
「他にも下位だけど楽しみな選手はいるの?」
がっくりと落ちこみかけた理衣を見て、慌てて話を元に戻す。
「そりゃ楠本よね。今のところ打撃で魅せてくれているから、開幕一軍あるかもよ。ドラフト会議では、最後から2番目の指名だったんだから凄いわよね。まあ、最後の一人もベイスターズの指名なんだけどね」
「それでも1軍争いしているんだから、本当に力さえ示せばよい世界だっていうのが分かるね」
「もちろん、オープン戦とは違うし1軍でうまくいくとは限らないけれど、すっごい楽しみよね!」
クッションを強く抱きしめて期待度を表現する結乃。
「ちなみに結乃は、ドラフト下位だったら今までで誰が一番すごかったと思う?」
「え? そりゃもちろん、石井と進藤のドラフト外コンビでしょ! ドラフト外なのに優勝時のショートとサードのレギュラーでマシンガン打線の一員だったんだから!」
当然とばかりの口調の結乃だったが。
なんで女子高校生が石井とか進藤とか、今はないドラフト外とか口にするのだと思う理衣であった。