ルーキー達は将来が楽しみだし、大卒や社会人出身で即戦力が期待される選手がいるのも確かだが、どれだけ大学や社会人で活躍していてもプロでの実績はゼロである。本当に活躍できるのかは未知数だし、最初から戦力として数えていると痛い目にあう。活躍してくれたら儲けもの、くらいに考えておくのが丁度良いだろう。
それに比べればトレードやＦＡ、外国人選手というのは遥かに期待値が高い。彼らは皆、他の球団などで活躍してきた実績があるからだ。
ベイスターズも勿論、新戦力の補強をしている。
「一番はやっぱり大和よね！ 地味だとか、一億の選手なのかとか言われるけれど、守備でお金が取れる選手よ。それに、どんな選手でもチームが求めている選手かどうか、というのは大切だしね」
結乃の言葉に理衣は首を傾げる。
「どういうこと？ 力のある選手ならどのチームでも欲しいと思うんじゃないの。年棒との兼ね合いとか？」
「それもあるけれど、他の選手との兼ね合いよね」
「同じポジションに有力な選手がいるから、かな」
「もちろん、それもあるわ。でも、それにプラスアルファ」
まだ理衣にはピンとこない。
「大和の選手としての特徴は？」
「えーと、内野、外野、いずれも守備が凄く上手。足と小技はそこそこ、パワーはない」
ネットなどで仕入れた知識を口にする理衣。
「そう、完全に、守備力＞＞打力 の選手よね。で、そういう選手が打撃の弱いチームにいたらどうなると思う？」
「…………打撃力の高い選手の方が起用される？」
「まさに、それよ！」
人差し指を立てて横に振る結乃。
なんとなく、理衣にも理解出来てきた。
大和が所属していたタイガースは優秀なピッチングスタッフ多いが、打線は強くなく、またベテラン頼りでもあった。投手が良くても点が入らなければ勝てないわけで、多少は守備が劣っても打力を期待できる選手の方が起用されやすい。
だから大和はタイガースではレギュラー定着とはいかなかった。
一方でベイスターズはどうであろうか。優勝したカープに次ぐ打力を誇り、特にクリーンアップは、、“打点王”、“日本の四番”、“首位打者”が揃って並び、さらに１番、９番と捕手が５０打点以上を叩き出しており、破壊力を有する。
点を取ることは他の選手で期待できる。むしろバントや盗塁が極端に少なく、クリーンアップの前に上手にランナーを溜められないことが課題でもあった。また点は取れてもそれ以上に失点しては試合には勝てない。それが大和の守備なら失点を抑えることが出来る。
大和のような守備力の高い選手は、横浜に来たほうが活躍の場が得られやすい、明確な役割をもたせやすいのだ。
「なるほどね。でも、去年まで守っていた選手は」
「そればかりは、誰が来ようと来るまいと競争はあるから」
倉本、柴田だけではない。石川、田中だっている。それでも球団は大和がＦＡしたときに手を上げた。その意味を、他の選手達も感じ取って行動しなければならない。
倉本などは現時点で守備はかなわないと理解したのか分からないが、打撃の方でアピールを続けている。当初は「ショート、倉本」にこだわっていたように見えたラミレス監督も、大和の守備力を見て方向を変えたのか、二遊間については様々なバリエーションを試している。
「派手な補強ではないけれど、チームとしては有効な選手に来てもらえたと思うわ。去年は守備でも色々と泣かされたしね……」
自分で言っておきながらがっくりと肩を落とす結乃。
「そんなに大和選手の守備って凄いの？」
「そりゃそうよ、素人目にも違いが分かるわ。なんといっても捕球してから投げるまでが速い。特にグラブトスとか、あれ捕っていないわよ。弾いているのにトスしているわ」
「はぁ」
守備の上手いというのは素人には分かりづらい。ダイビングキャッチをすれば上手なわけではない。それでも大和は守備が上手いと言われるのだから、かなりのものなのだろうと理衣も察する。
「ここのところポロリが多いけれど、二塁と遊撃を交互に守ったり、移籍して新しいチームでの不慣れさや疲労とかもあるでしょうから、そこは差し引いてみているわよ！」
「差し引くんだ」
「――と、いうわけで、全力応援よ、前田！」
「そこは大和さんて呼ぼうよ、そっちの方が格好いいじゃん！」
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