「コーチによってそんなにチームの強さとか選手が発揮できる力って、変わってくるものなの?」
素朴な疑問を夕がぶつけてきて、順はどのように答えるべきか迷った。
「ある程度は変わるとは思うけれど、自分も野球選手じゃないから詳しくは分からないな。でも、存在は大きいと思うよ。チームを潤滑に回すためにコーチは必要不可欠だから」
当たり前だがチームは監督一人で回せるものではない。何十人もいる選手全員に目をいきわたらせるのは困難である。監督の意図を汲み取って選手に指示を出し、また逆に選手たちの体調やその日の状態といった情報を吸い上げて監督に情報を集める。中間管理職などとも言われるが、現場とトップを繋ぐ重要な役割を担っている。
また打撃コーチであれば攻撃の作戦を、投手コーチであれば継投策を、そういった戦術を考えて監督に進言する。最終決断は監督だが、作戦自体はコーチが決めるというのも多いだろう。
ただ、選手の技術力を向上させるという意味では、そこまで大きな役割を担っているわけではないのかもしれない。一軍で試合に出場しているような選手は、技術的には出来上がっている部分が大きい。だから、どちらかといえばスランプに陥った時のアドバイス、そういう点を求められているのではないだろうか。
「だから、コーチ陣総入れ替えとかしちゃうと、最初からその辺やり直しになるから大変だと思う。今のベイスターズは昨年からの継続が多いから、その点の心配は少ないと思うけれど。あと、バランスも悪くないと思う」
打撃コーチは右打者だった小川コーチ、左打者だった坪井コーチがいて、投手コーチも右の木塚コーチに左の篠原コーチ。左右それぞれで選手を指導できる。強いて言うならば、投手コーチがいずれも現役時代は中継ぎだったことか。ただ、継投のことを考えるなら中継ぎ投手だった方が良いのかもしれない。
「昨年と変わったのは、内野守備走塁コーチの永池、バッテリーが去年までの光山さんに加えて藤田さんか。永池も現役時代は内野のユーティリティー的ポジションだったし、二軍でも同ポジションだったし大丈夫かな。藤田さんも二軍バッテリー見ていたし、一軍のキャッチャーは課題であることに変わりないし、強化されたよな」
「じゃあ、ベンチワークは問題なさそうだね」
「経験的にも、そうじゃないかと思える。ラミレス監督とも二年一緒だし、意思疎通も大丈夫だろう」
大丈夫だという割に、順の表情はそこまで明るいものではない。その理由は、次の発言で分かった。
「問題は二軍だよ。素人目だけど、弱く見えてしまうんだよなぁ」
弱気な言を発する順。
投手コーチの川村、大家はともかく、打撃コーチの柳田に嶋村、バッテリーの新沼と靏岡の名前を聞くと、本当に大丈夫なのかと思ってしまう。
特に二軍だと、まだまだ成長中の若手をきっちり指導して育成し、一軍の戦力となるべく鍛え上げることが求められる。それに応えられるようなコーチとしての能力を持っているのか不安になる。まだ若いから、選手と一緒に出来るという利点はあるかもしれないが。
「あとは……」
「まだあるの?」
「あとは、うん、三塁コーチかなぁ」
「あぁ……難しいよね、あそこは」
目立たないけれど、ここぞという時の判断力が問われ、もしかしたら試合の結果につながるような判断もあるかもしれない。
三塁コーチは経験もそうだが、センスも大きいような気もする。さて、果たして2018年はどのような信号機になるだろうか。不安であると同時に、少し楽しみでもある順なのであった。