スモールと攻撃的と <攻撃的野球>
「5/6の巨人戦では、2番にソトを入れる攻撃的野球できたわね。そこで、スモールベースボールと攻撃的布陣、どっちの方が好きか考えてみることにするわ!」
試合がなくて退屈していた結乃は、思い付きでそのようなことを言った。
「どっちが良いとかじゃなくて、どっちが好きか、なんだ」
「だって、あたし素人よ、どっちが良いとか上とかわかるわけないじゃない。だから、好みで選ぶのよ!」
威張って言う結乃に理衣は苦笑する。
「でも、どっちが好きかといったら、結乃の性格的に攻撃的野球じゃないの?」
「あたしの性格的にってどういう意味よ。あたしの性格が攻撃的だっていうの?」
「・・・・・・(それ以外に何があると)」
「まあいいわ、それじゃあ攻撃的野球から考えてみましょう。ちょうどトレンドでもあるしね」
「・・・・・・(トレンド?)」
首を傾げる理衣を無視して結乃は続ける。
「攻撃的野球、それってどういうことかしらね? あれか、2番に強打者をいれるやつ。えーと、ヤクルトが川端を入れたり、巨人がマギーを入れたり、そしてベイスターズが梶谷やソトをいれたやつね! ・・・・きっと」
「名前を見ても、バントしそうにないね」
「1番が出塁しても、簡単には送らず基本はヒッティング! 打つべし、打つべし!」
「これの利点ってなんだろう?」
手を顎に当てて考える理衣。
「まず初回を考えると、立ち上がり不安定な先発投手に簡単にアウトをあげないってところよね」
どんなに良い投手でも立ち上がりは不安定な事は多々ある。そんな中で先頭打者にもヒットを打たれたら、早く1アウトを欲しいと思うのが人というものだろう。
バントはランナーを進塁させるが、1アウトを確実に献上することでもある。ヒッティングなら、また打たれるかもしれないという思いを投手に抱かせる。
「簡単にアウトをあげないで、畳み掛ける! 弱いところを突くのは戦術の常とう手段よね!」
「でも、そう簡単に畳み掛けられるの?」
「そこが難しいところだけど、だからある程度の技術も必要ではあるわよね。ランナー1塁だとファーストが塁につくから、1,2塁間が広くなる。ゲッツー阻止、最低でも進塁させるため、1,2塁間方向に打てる技術があるといいわよね」
川端なら引っ張る、マギーなら流す。
「梶谷選手やソト選手は・・・?」
「まー、そこが課題でもあるわよね」
だからこそ難しい部分でもあるのか。
「もう一つ。送るよりも単純に沢山の点が入る可能性が高くなる。1アウト2塁だと、そもそも点が入る可能性だってそこまで高くないわけだしね。長打か、更に進塁させてヒットか。取れても大量点にはなりづらいわ」
「ヒッティングだと?」
「うまくいけば1,3塁、そうでなくても1,2塁でノーアウト。1点は取りやすいし、さらに追加点も入りやすい」
「うーん、感覚的にはそんな気がするけれど、本当かなぁ?」
「データ統計上でもそう出ていますよ」
「うわっ、百合子ちゃんいつ間に!?」
ぬるりと登場したのは、データ集めに凝っている百合子だった。
自前のノートPCを叩いてデータを取り出す。
「得点確率、得点期待値というものがあります。これはその状況でどれだけ点が取れるか、点が入る可能性がどれだけあるかを示す数値です。見ると、1アウトよりもノーアウトの方が圧倒的に数値が高いのです」
得点期待値(Linear Weights):その状況から3アウトまでに獲得できるであろう平均的な得点
「うわ、これを見ると、1アウト2塁より、ノーアウト1塁の方が得点期待値が高いんだ!」
「本当だ。確かに、1アウトあげちゃうよりヒッティングの方が良いって思うね、これじゃあ」
「それじゃあもう、攻撃的野球に決まりでいいんじゃないの?」
「そういうものでもありません。そもそも、攻撃的2番を置いたからスモールベースボールじゃない、ってわけじゃないですし」
「え、そうなの、理衣ちゃん?」
「私に聞かれても・・・・そうなの、百合子ちゃん?」
「そうですよ。じゃあ次はスモールにいきましょうか。あ、ちなみに私もにわかですから、あくまで持論ですからね」
「別にいいよ、正解を求めてとかじゃなくて、お互いにどう考えて、どの考えが一番好みか探っているだけだから」
「・・・・了解です。んでは」
「ということで、もうちょい続くよ!」