白崎・高城⇔伊藤・赤間のトレードについて
「白崎選手と高城選手がトレードでオリックスに! いまでもショックで寂しいよー」
しくしくと項垂れる理衣。
ファンであれば大なり小なり選手に対する思い入れはある。
高城はDeNA前年、白崎はDeNA初年度にドラフト上位で入団してきた選手。
いわばDeNAとともに成長してきた選手でもある。
また、決して突出した成績を出せず失敗も多かったが、憎めない愛すべきキャラクターでもあった。
「チームの成長のためには、そういうことも必要なのよ」
悟ったように言う結乃。
もちろん結乃だって思う所はあるが、それでもドライに徹するのだ。
「今回のトレードを考えてみましょう。まあ、様々なところで言われているから今更だけど、基本的には白崎-伊藤光がトレードの路線だったんでしょうね」
「そうなの?」
「そりゃそうよ。お互いに自軍ではある意味干されていてこの先の出番はなさそう。でもクビにするのは勿体ない。そこで捕手に困っている横浜、長打の期待できる内野手の欲しいオリックス、両球団の思惑が一致したってことよね」
二人とも老け込む歳でもなく、環境さえ変えれば活躍できる素地は持っている。
「じゃあ、残りの二人は?」
「捕手は他の選手では替えがきかないから、オリックスが欲しがったんでしょ。ルーキー山本は出せないし、西森は年齢的にも実績的にも欲しがらないでしょ。まだ若くて伸びの期待できる高城を選んだのはある意味当然よね」
「でも、よく横浜が出したね・・・・」
「戸柱、嶺井、高城がいて光じゃあ、いずれにせよ最低でも一人は冷や飯を食らうのよ。今の3人で誰も決め手がない、出すのも致し方なし、ってことでしょ」
「赤間投手は・・・・」
「高城を出すから、そのつり合いでしょ。中継ぎはいくらいても足りないことはないだろうし」
かくして今回のトレードが成立した、というわけか。
「まあ白崎は出してあげた方が本人のためにもなったと思うけど、問題は高城が抜けることによるダメージよね」
「良いキャラだもんね」
「それよ! 捕手そのものよりも、ベンチでの気遣いとか、明るく盛り上げるとか、そういうことが最も上手にできる。これは、鍛えて出来るものじゃないからね」
「桑原選手は?」
「桑原は真面目だからね、自分が不調だとそんな余裕もないし。桑原も言っていたじゃない、『高城は僕の精神安定剤です』って」
「そんな人がいなくなっちゃうんだ」
「スタメンじゃなくても、成績が思うようにいかなくても、それでも周囲を気遣って明るく出来るのは貴重よ。数字では図れない貢献度というものがあったと思うけれど」
もちろん、球団だって分かったうえで放出しているのだろう。
何かしら痛みを伴わなければ、得ることなど出来ないのだ。
「伊藤光はガツガツしているって聞くし、もしかしたら捕手陣の関係も変わるかもしれない。でも、球団もそれに賭けてきている、ってことなのよね、きっと」
「それは、上を目指すため・・・・?」
「もちろん。うまくいくかどうかは分からないけれど、今のままじゃ上がり目は少ないとみたんでしょ?」
捕手が打てるならば、打線の中での位置づけが大きく変換する。
かつての阿部や城島とは言わないが、2割5分以上を打てて、打点も稼げるなら、今までとはガラっと変わるのは確かだ。
「この賭けに勝つかどうかは、後半戦の結果で分かるわ。オールスター明けから早速出場するみたいだし」
「うう、期待と不安が」
「それが真剣勝負ってもんだし、プロの世界ってもんでしょ」
7月中には分かるであろう、伊藤光の力。
もちろん、セの打者も横浜の投手も知らないだろうから、すぐに全ての力が出るか分からないが、今の戸柱、嶺井よりも上であれば構わないのだ。
「白崎、高城も頑張れ! 日本シリーズであいましょう!」
「寂しいけど、オリックスでレギュラーになって沢山試合に出られたら嬉しいね!」