2018年9月21日(金) vs 中日ドラゴンズ
結果:横浜9-1 中日
敢闘選手賞:京山
「12連戦のスタートを幸先良く切ったね!」
笑顔で声をあげる理衣。
「京山が投げ切ってくれたのが大きいわよね。中継ぎを使わずにすんだから」
完勝ともいう内容で連戦の好スタートを切ったことで、満足したように頷く結乃。
「京田にホームラン打たれた時はどうなるかと思ったけどね」
「ああ、なんかコントロールも落ち着かなかったもんね」
「それ以降も先頭打者をよく出したけれど、併殺なんかでうまく切り抜けたわね」
「大和選手の守備とかね!」
「大和は取ってから投げるまでが速いわよね!」
「打線も、先制された裏にソト選手の犠牲フライですぐに同点に!」
「宮崎が進塁打、そして犠牲フライと、珍しくつながったわよね」
「そして桑原選手の勝ち越しホームランに、伊藤選手のタイムリー!」
「雄洋の内野安打で、伊藤までホームに返ってきたのはナイスランよね!」
「さすが、イケメン!」
「それはもういいから」
「最後は筒香選手がとどめの3ラン!」
「10安打で9点と珍しく効率よく、攻撃に関しても言うこと無かったわね」
笑顔で頷き合う理衣と結乃であったが。
数十分後。
二人の目には大粒の水滴が光っていた。
「加賀選手、本当に引退しちゃうんだね」
寂しそうに呟く理衣。
結乃はギュっとプリーツスカートを握り締める。その手はかすかに震えている。
「暗黒時代をずっと支えてくれていたのよね。本当、もう少し大事に使って故障さえなければ、もっと投げられたと思うのに」
悔しそうに言う結乃。
バックスクリーンに映像が流れる。
引退した選手、現役の仲間、コーチ、かつて共に戦った多くの人達のメッセージから、加賀がいかに職人として中継ぎの役割に徹してきたのかが分かる。
高崎、大原、菊地といった面々の顔を見て、メッセージを聞いて、心が震える。
三浦も、木塚コーチも勿論、共に戦ってきた仲間だ。外すわけにはいかない。
それでも、加賀を語るうえで絶対に忘れてはいけない選手がいるではないか。
そして。
「・・・・え、え、マジで!?」
「うそ、本当に!?」
見ていた結乃たちも驚く。
対戦シーンの映像が流れた後に現れたのは、なんとその本人だった。
『・・・・加賀、バレンティンだ』
「バレンティンきたーーーー!?」
あったら良いな、でもまあ無いだろう。
そう思っていたバレンティンからのメッセージが最後にやってきたのだ。
シーズン60本のホームラン記録を打ち立てたバレンティン。
だが、その年のバレンティンでも打てなかったのが加賀だ。
20打席ノーヒットと、徹底的に抑えてきたバレンティンキラー。
『バレンティン専用機』
などとも言われるくらい、相性の良さを誇っていた。
初めて加賀からヒットを打ったバレンティンがそのボールを欲しがったくらいだ。
そんな、何年にもわたり戦ってきたセリーグが誇る強打者が、加賀の為にメッセージをくれたのだ。
「バレンティン選手、いい人だね・・・・」
「中日の選手も、わざわざ残ってくれて有難いわね」
「あ、プーさん号泣してる」
「ちょ、何それ、なんで加賀が笑っているのにめっちゃ泣いてるのよ! そんなんされたら、こっちだって・・・・!」
と、見る間に涙腺崩壊する結乃。
さらに。
ベンチで、高崎、大原に出迎えられ、三人で写真を撮る姿を見て。
「・・・・・・っ」
もはや、声にもならない結乃。
暗黒と呼ばれた時代、来る日も来る日も、厳しい場面で投入され、黙々と投げて凌いできた加賀、大原。
援護の無い中投げ続け、力を伸ばしきれなかった高崎。
同級生たちと苦しい時を支えてきた。
「・・・・どうして、今年は出来て、高崎と大原の引退試合ができなかったのよ・・・・!」
拳を握りしめ、絞り出すように言う結乃。
暗黒時代を支えてきた戦士達。加賀や大原は確実に酷使によって選手寿命を縮めたであろう。
そんな戦士達が、とうとう消えた。今のDeNAを見て、自分たちの役割は終えたと思ったのか分からないが、まだ若いのに潔く辞めていく。
だけど、今のDeNAがAクラス争いが出来るのは、彼らが潰れそうな暗黒期を支えてくれていたからなのだ。
とうとう、残されたのは石川雄洋だけとなった。
「今年は駄目だったけど、次こそ、優勝するわよ! そして、暗黒時代を支えた人達とともに喜びを分かち合うのよ!」
ありがとう、『ハマのゴエモン』・加賀繁。
俺達は、”加賀繁を忘れない”