戦力外通告② Gutsある投球で魅せてくれた、須田幸太
スタンドの観客が立ち上がり、ライトスタンドの方に視線を向ける。
一体、誰が出てくるのだろうか。
扉が開く。
リリーフカーが見え始める。
そして、登場曲が流れ出す。
耳に馴染んだ出だしの曲を耳にして、盛り上がる観客席。
「須田だ!」
声が響く。
手拍子が揃う。
マウンドで躍動する。
キレのあるストレートが糸を引くように外角に決まる。
絶体絶命のピンチを切り抜け、ガッツポーズを見せる。
その姿に、ファンも総立ちで大声援を送る。
それが、ここ数年の須田の姿のはずだった。
「あれだけ輝いて、人気も出たのに、戦力外になっちゃうとはね」
目を閉じて唸るような声を出す結乃。
「ピンチといえば須田投手、だったよね」
理衣もまた懐かしむように言う。
満塁のピンチなど、見ごたえのある場面を抑えた印象の強い、2015年以降の須田だった。
「特に2016年は中継ぎ、便利屋として本当に頼りになったわよね。須田がいたからCSに行けたのは過言ではないわ」
目立たず苦しい役割を果たしてくれた。
だが、その代償は大きかった。
「肉離れの怪我もあったでしょうけれど、やはり投げ過ぎがきいたのかしらね」
慣れない中継ぎで登板数がかさんだのは事実。
そして2017年、2018年と、思うような投球が出来なくなりつつあった。
特に須田といえばストレート。150キロを超えるような剛球ではないが、キレがあり球速以上に威力があった。
「見ていて気持ちの良いストレートだったよね」
あのストレートが見られなくなるのは残念だ。
「思い返せば、須田といえば」
「いえば?」
「ルーキー年、9点リードしてもらっていたヤクルト戦で5回持たず7失点KOされてまさかの引き分けに終わるという思い出」
「なんで、それが・・・・」
「いや、初回に8点取って、それで追いつかれるとは思わないでしょう!?」
これは須田にとってもファンにとっても悪夢の試合の一つである。
「この時、なんでドラ1で須田を取ったんだって思った人も多いはず」
その試合に限らず、ドラ1の割にはパッとせず、首になるのではと思ったファンは多かったのではないか。
「それが中継ぎであんなに光を放つとはね。本人がどう思っているかは分からないけれど、光らずに終わる選手も多いんだから、活躍できたのは良かったんじゃあないかしら」
「でも、まだ力を発揮できると思うんだけど。戦力外は早すぎない?」
「そうね、どっちになるか怪しい立ち位置だとは思っていたけれど」
悪い方に振れてしまったという子とか。
「まだまだやれると思うんだよね」
「そうね、古巣のJFEに戻るなんて噂も出ているし、野球は続けるんじゃないかしら?」
「チームから離れてしまうのは寂しいけれど、応援したいね」
「そうよ、頑張れ須田幸太! それこそガッツよ!」
奇しくも荒波、須田と、登場曲で盛り上がる二人が同時に戦力外通告となった。
だが、まだ老け込む歳ではない。
どこに行くかはわからないが、まだ「須田、ここにあり」というところを見せてほしい。
でも本当にありがとう、須田幸太!