「破竹の12連勝っ!」
結乃が勝利のポーズを決める。
「プレイバック中継の話だね」
理衣が冷静に突っ込む。
「いいのよ、開幕が見えてきた中、気持ちを高めていくためにもねっ!」
「まあ、盛り上がっていくのはいいよね」
「マウンドでも、気合十分の姿を見せる選手もいるしね」
「そこで繋げるかー」
■横浜ベイスターズ (1993 - 2001)
■通算 31勝 28敗 9セーブ
「ここまできたら中継ぎローテーションやりきらないとね!」
「ということで、でん助こと、五十嵐英樹よ!」
「なんで、でん助なの?」
「コメディアンの大宮デン助に似ているからよ!」
「ファンにとっては、ヒゲ魔神だよね」
「あのヒゲは印象に残ったわよね!」
「似合っていたよね」
「でもあのヒゲ、実際は気の小さいのを見せないように生やしているのよ」
「そうなんだ! あんまりそうは見えないよね」
「そしてなんといっても五十嵐といえば、1998年8月28日の広島戦よね!」
「あの伝説の!」
「先発投手は川村! 打線が初回から爆発! 3回を終えて7-0と大量リード!」
「見ているファンは楽しいね!」
前半戦に勝ち星を伸ばしていた川村。
川村自身のタイムリーなどもあり、さすがにいけるだろうと思っていた。
しかし、2点、2点と点を取られ、さらに7回。
「カープの重量打線によって2点を取られて1点差、なおも無視2,3塁!」
「絶体絶命のピンチ!」
「流れ的に、どう考えても同点、逆転までいく展開。そこでマウンドにあがったのがヒゲ魔神!」
「お願い!」
「向かってくるは、カープが誇る4番金本、5番江藤、6番緒方!」
「聞くだけで打たれそう・・・・」
「そんな相手に一球ごとに吠える五十嵐! 返球を受ける度にマウンドからキャッチャーの方に近づく五十嵐! サインを見る際に右腕を横にあげる五十嵐!」
「もう、言葉で伝えるのが難しいくらいの気迫だよね!」
「正直、観ている方ももう駄目だ! って思ったわよ。そこを三者三振! 吠えるわ!!」
「これは盛り上がるね!」
負ければ2位が0.5ゲーム差に迫ってくる試合。
それに、8月はチームの調子が落ちて、3連戦負け越しが続いていたような時期だった。
久しぶりに楽勝と思える試合展開だったのを落としたらダメージは計り知れない。
そういう試合だったのだ。
「この五十嵐の投球で打線も盛り返し! 最終的には大差で勝利したけれど、本当に五十嵐の魂の投球だったわ」
「ターニングポイントとも呼ばれた試合だよね」
「本当、とにかく辛い時期だったから、もう!」
あの試合だけでも、五十嵐という投手には価値があった。
そう思わせてくれる投球だった。
「ただね、なぜかYoutubeにも動画とか見つからないのよ! 誰か、知っていたら教えて!」
「観たいよね!」
ひじを怪我して、以降は活躍できなかった五十嵐。
それでも、優勝できたのは五十嵐がいたおかげと間違いなく断言できる。
「誰か動画を!」
「そういうことは言わないように!」