「ということで、戦力外のラストは雄洋よ!」
力強く結乃が言う。
「石川さん、残念・・・・」
理衣もがっかりしている。
TBSの暗黒時代を象徴する選手と言われていた。
叩かれる代表だった。
それでも愚直に努力をし、練習を積み重ね、いつしかファンから愛されるようになっていた。
昔からのファンは、石川に色々なものを重ねてしまう。
だから、憎くもあり、愛すべき選手にもなった。
「正直に言えば、あたしだってかつては叩いたことがない、とは言わないわ」
「そうなんだ」
「まあ、あのショートの守備とか、色々とねえ」
「よく言われているよね」
「でも守備位置に関しては球団のせい、というのもあるわよね。地元出身のショートのスター選手を作りたい、そういう思いを背負わされているように感じたわ」
- 高い上背
- 格好良いスタイル
- 顔も悪くない
そして
- 横浜高校出身
球団が押そうとしたのも分からなくはない。
「ここ数年は一軍での出場も減っていて、ヤバい状況ではあったけれどね、とうとうか」
「今シーズンは一度も一軍にあがらなかったね」
「オープン戦の時に一度、あげようとしていたはずなのよね。でも、コロナでなくなって、それきり」
「ペナントレースでも呼ばれなかったもんね」
確かに、二塁守備がお世辞にも上手なわけではなく、打撃能力がものすごく高いわけではない。
バントやエンドランができて走塁技術が高くても、それはラミレス監督の野球と合うわけでもない。
その辺も噛みあわなかった。
- 外見によらず、泥臭いプレイスタイル
- 努力と根性
- 新加入の選手に声をかける気遣い
若い頃も見ているだけに、「あの石川がねぇ・・・・」と思うような感じもある。
「ベイスターズで終わって欲しかったけれど、それはこっちの勝手な思いだもんね」
「野球を続けたいというなら、最後まで頑張ってほしいよね」
「可能性が低くても、そこで諦めて何もしなかったらゼロだからね」
「どこかのチームでまた戦えると良いんだけど」
思い出す、
- ゴロ捌きの下手さ
- フライ処理が上手いゆえの深追い
- 気迫のヘッドスライディング
- 東京ドームでの10連敗を止める勝ち越しHR
- 1000本安打
- 球場で配られる冊子に書かれている、茶目っ気のあるコメント
とにかく、何かと記憶に残る。
「”どんなポーズをしても決めポーズになっちゃう”とか、自分で言っちゃうのが凄いわよね」
「でも、それがあながち冗談でもない格好良さがあるよね」
「優勝できなかったのが悔しいわぁ」
あの、悲惨とも言える暗黒時代を過ごした最後の戦士。
優勝という美酒を味わってもらいたかった。
「雄洋、諦めないでね!」
「本当に、本当に!」
栄冠掴むその日まで 恐れず飛び込めベースへ
君の熱き血潮で 燃えろ 雄洋
まだ、栄冠はつかめていない。
諦めず、その日まで。