スモールと攻撃的と <スモールベースボール>
「前回は攻撃的野球をちょっと考えたからー、今回はスモールベースボールね!」
結乃が口火を切ると、理衣、そして百合子が頷く。
「スモールベースボールっていうと、2番・大和! ってことね」
「違うと思う・・・・」
「何よ、じゃあ理衣ちゃん分かるの!?」
結乃に噛みつかれて焦りながらも口を開く理衣。
「えーと、バントとか盗塁で点を取っていくってイメージがあるけれど」
「そうですね。長打に依存せず、小技や機動力で確実に1点を取りに行く。簡単に言うとそういうことでしょうか」
百合子が冷静にノートPCを操りながら答える。
ググっているのだろう。
「スモールベースボールは、いかに効率よくアウトになるか、という考え方ですね。要はバントや進塁打、犠牲フライなど。少ないけれど確実に点を取り、高い投手力や守備力でその点を守る」
「え、じゃあベイスターズには無理じゃない。議論終了?」
「ゆ、結乃……」
それで終わってしまっては意味がないので続ける。
「確かに、ベイスターズでは高い投手力、守備力というのは当てはまらないかもしれません。でも、これが8回や9回だったら?」
「あ、うちには康晃がいる」
「そうですね。1点を勝ち越せば勝てる可能性はかなり高いです」
「確かに、そういうときは連打に期待での大量点というより、1点が欲しいわね」
ふむふむと頷く結乃。
「じゃあ、時と場合によって使い分ければ良いってこと?」
はい、と手を上げて質問する理衣。年下の百合子だが、完全に先生役だ。
「そういうことですね。横浜みたいに狭いヒッターズパークで初回からスモールベースボールとか、やってもどうかと思いますが、それでも競った試合の終盤なら違いますよね」
「あるいは、広い球場で好投手同士の投げ合いとか?」
「まあ、微妙ですけどね。ノーアウト1塁とワンアウト2塁では、得点確率はほぼ変わらないはずですので」
「でも、菅野投手相手だと、バントしないと進塁打すら出来ないかも・・・・」
「先に述べたように、単純にバントだけではありません。出塁したら盗塁して送りバント、スクイズ、それでも良いのですから」
ベイスターズが8連勝していた時は、神里や宮本が足をいかして相手をかきまわし、少ない得点機を活かして勝利していた。
打てなくても勝てる、スピーディな野球は確かに見ていても面白かった。
「最近は研究されて盗塁失敗も多いし、そもそも塁に出られないとかあるけれど、神里や宮本のお蔭で、去年では見られなかったような攻撃が出来ていたわね、確かに!」
「なので、「2番・大和!」がスモールベースボールというわけではありません」
「う・・・・蒸し返さなくても」
百合子の冷たい言葉に、赤面して歯噛みする結乃。
「まあ、チームカラー、そして横浜スタジアムということもあり、横浜というチームは昔から攻撃的野球というか、おおざっぱ野球が適していた、というかそれしか出来なかったのは事実です」
「でも長いシーズン、優勝するには1点が欲しい! って場面も多々あるもんね」
「それじゃあ、そろそろ結論? 結乃はどっちが好みだった?」
「うーん」
腕組みをして沈思黙考する結乃。
やがて。
「やっぱさっき言ったように、基本は攻撃的野球、んで、ここってときにはスモールベースボールもできる、これが良いんじゃないかしら? それにスーパーカートリオがあったように、横浜は走れない球団にもなって欲しくないわ」
「はい、結乃先輩らしくない、一番面白くない結論でしたね」
「仕方ないじゃん、優勝目指しているんだから!!」
新たな戦力で、多少なりともスモールベースボールらしきものも出来るようになってきたベイスターズ。
出来なくても走塁の意識向上、走塁改革で相手チームに色々なことを考えさせられるようになることだってプラスである。
考えなくてはいけないシチュエーション、攻撃バリエーションが増えれば、それだけ守備陣、捕手、投手の負担が増えるのだ。
「そっか、今までベイスターズがずっとやられてきていたことじゃん!」
「それを、ベイスターズも出来るようになれば、面白いですよね」
さて、ラミレス監督はどのようなタクトをふるのか。
一か月が過ぎてまだ試している部分もあるように感じられるが、この先の戦い方を見ていきたい。
「やっぱ、走れない、各駅停車打線は嫌よ!!」