2019年7月20日 中日戦
結果:横浜4-3中日
敢闘選手賞:石田、ソト
「・・・・逃げ、切っとぅわーーーー!!」
最後の打者、中日の遠藤をアウトにとったのを見届けて、結乃は座席から立ち上がった。
「ああ、勝ったねぇ」
理衣は逆に、力が抜けたように背もたれに体をあずける。
4-3
際どい試合をどうにかものにした瞬間だった。
「よーっし、石田、よくやったわ!」
少し時は流れ、ヒーローインタビューのお立ち台には、その男が立っていた。
背番号14、石田健大。
二年目に9勝を挙げ、エースと期待され、2年連続で開幕投手も結果が出なかった。
味方が援護をすれば直後に吐き出すと言われ、ファンからもそのような目で見られていた男。
2019年は肘通で出遅れ、中継ぎとして役割を与えられた。
だが真面目な男は腐ること無く、自分の役割を全うした。
勝ちパターンではない。
開幕投手となり、エースとも期待された男が、ビハインドの中継ぎとして投げる。その胸中やいかに。
それでも結果を残して、ようやく巡ってきたこの機会。
2018年までの先発の石田の姿はなかった。
初回から明らかに飛ばしていた。
直球は150キロを計測し、変化球は切れていた。
4点を先制した直後の4回表、先頭の平田にいきなりホームランを打たれ「またか」みたいな空気も流れた。
だが、その後はきっちり抑えた。
5回、飛ばしてきたことがたたってか明らかに球が浮いて制御できなくなってきていた。
2死ながら1,3塁のピンチ。
ここで打たれれば先頭の平田に回り、試合の流れ、石田の状態を考えても交代の可能性が高かった。
それでも力を振り絞り、三振にきってピンチを切り抜けた。
投げたイニングは5回。
長くはないが、それでも今までの石田とは違う姿を見せてくれていた。
スタメン発表の時も、ピンチの時も、そしてお立ち台にあがったときもファンの声援は誰よりも大きかった。
皆、石田が苦労して、それでも自分の力で再びつかみ取った先発の舞台だと知っていたからだ。
「うう・・・・よかったねぇ、石田投手」
理衣もやや涙目になっている。
「何言ってんのよ、まだまだよ! この試合は先発復帰だから5回で充分だけど、次はイニングを伸ばしてもらわないと、中継ぎがもたないからね!」
この日も三嶋、エスコバー、パットン、山﨑の勝ちパターンが投げた。
しかしエスコバーはピンチを迎えて苦しいピッチング、かろうじてゼロに抑えただけ。
パットンはこの試合も失点した。
「中継ぎは誰も苦しいわ。石田が抜けて、更に苦しいからね。本当は誰か休ませられれば良いのだけれど」
三上、砂田と、昨年までいてくれた選手がいない。
国吉と石田が加わっていたのだが、石田が抜けた。
そして国吉は良い時と悪い時の差が大きい。
「でも、若い投手も出てきたし!」
齋藤や櫻井がこのまま結果を残し、僅差の試合でも投げられるようになってくれれば。
「打線は相変わらずだけど、少ないチャンスをものにしたわね」
「3回の集中打は見事だったね!」
連敗中の山井を相手に、2回まではいつものようにスイスイと投げられた。
しかし3回、2死から連打で一気に4得点。
この4点を死守したのだ。
「やっぱり投手力よ! 打線は水物、少ない機会でとった得点をいかに守り抜いていくか!」
「そのためには中継ぎ陣だけど、疲れが出ているから先発投手に頑張ってほしいね」
「さあ、中日4連戦、最後は大貫。なんとか6回を目標に投げ切って欲しいわ!」
「そして打線が援護して、勝ちパターンの投手が投げなくてもいいようにしたいね!」
「勝って、7連戦を5勝2敗で締めるわよ!」
「おー!」
ファンの声援に応えながら球場を歩く石田を見る。
結乃と理衣も両手を振って、祝福する。
苦しいが、チーム状況は悪くない。
さあ、巨人を追いかけよう!