「筒香選手がメジャーに行っちゃうよ!」
理衣が悲壮な表情で言う。
しかし、結乃は落ち着いたものである。
「ちょっと結乃、いいの? 筒香選手がいなくなっちゃうよ」
「だまらっしゃい!」
なぜか横山光輝「三国志」における諸葛亮の名言を放つ結乃。
それはさておき。
「ずっと前からメジャー挑戦を口にしていたからね、来るべき時がきたってことよ」
「それはそうかもだけど」
「そりゃ戦力的には痛いわよ。いくら置物だ地蔵だ言われていても、なんだかんだ痛いわよ」
「酷い言い分だね・・・・」
「叩かれるのは筒香だから、他の選手ならHR30本くらい打って、打点も80くらいあって、出塁率が高くて、文句はそう言われないわよ」
「求められるものが高いからこそ、だね」
「この穴を埋めるのは簡単じゃないわよ。数字にない、相手に与えるプレッシャーとかもあるしね」
「キャプテンでもあるしね」
純粋に打撃の戦力としてもそうだし、チームをまとめ皆を率いていく力としても、いなくなるのは痛い。
それでも、筒香の挑戦は応援したい。
「多くの人が無理だとか厳しいとか言っているけれど、何を言っているのかしらね」
「そうだよね、まだ行ってもいないのに」
「そうじゃないわよ」
「え?」
理衣が首を傾げる。
「メジャー”挑戦”なのよ、成功が約束されていたら挑戦でもなんでもないじゃない。だめかもしれない、失敗するかもしれない、だからこそ挑戦なんじゃない!」
「おおーっ」
拳を握りしめて力説する結乃に、思わず拍手をする理衣。
「全てわかったうえで筒香は挑戦したいわけよ。子供の頃の夢で、可能性があるのだから」
「成功とか失敗は二の次ってわけだね」
「もちろん、本人だって失敗したいつもりはないし成功したい、そのために準備もして来た。でも、保証は何もないことだって理解しているわよ」
日本に、ベイスターズに残っていれば安泰であろう。
だが、それを良しとしなかったのだ。
「チームとしては筒香が抜け、ロペスも落ちてくるのは間違いないから、チームの変わり目になるわね」
「う、怖いような、楽しみのような・・・・」
DeNAになって意識改革が最初の変わり目。
筒香が出てきて筒香を中心としたのが2回目の変わり目。
そこまでは、ただ上に向かっていくだけの変化だった。
下がりようがない場所からの変化だった。
だが今回は違う。
少しずつでも上がってきた中で、落ちるリスクの高い変化の波がやってきた。
「でも、若手はチャンスよ! ここで我武者羅にレギュラーを掴め!」
飽和状態だった外野に一つ枠が空いたのだ。
「もちろん、梶谷選手だっているしね」
「むしろ筒香の穴を埋めるとしたら、今季ほとんど出ていなかった梶谷がフルで出ることが一番の道よね」
フル出場なら、20本20盗塁は望めるし、打撃にプラスして守備と走塁でも期待が出来る。
「果たしてどのようなチーム作りをしていくのか、それを楽しみにしたいわ!」
「うーん、寂しいけれど筒香選手、頑張って!」
まだ何も決まったわけではないが、今までありがとう筒香。
暗黒DeNAで希望が持てたのは、若かりし筒香という存在がいたおかげでもあった。
思う存分、夢に向かって全力で走ってくれ。