「自粛要請から一週間以上が経ちましたが、みなさん、いかがお過ごしでしょうか?」
結乃が問いかける。
「いかがお過ごしかと問われても、困るよね」
理衣が困惑したように眉をハの字にしている。
「自由に外出も出来ず、ストレスが溜まっている人もいると聞くわ!」
「そりゃあそうだろうね」
「でも仕方ない! そういうときは妄想の中で外に出ましょう!」
「解決策がそれ!?」
「さてさて、選手を懐かしんで振り返ろうコーナー!」
「これまで名だたる選手を紹介して来たね」
「その流れで今回は!」
「今回は!?」
「田辺学よ!」
「流れっ!?」
■横浜大洋ホエールズ
横浜ベイスターズ (1989 - 1997)
■通算20勝 33敗 1セーブ
「な、なぜ、田辺選手を? いや、駄目というわけじゃなくて、流れ??」
頭にクエスチョンマークを浮かべているように見える理衣。
それに対し、結乃は。
「なんとなく!」
の一言で済ませる。
「確かに成績は上記の通り、タイトルもないけれど、鮮烈な印象があるじゃない!」
「というと?」
「あれよ、ほら、年に一度のミラクル投球!」
「・・・・はぁ」
ぽかーん、としている理衣。
「確かに田辺はコントロール悪いし、それが証拠にWHIPも通算で1.50超。それでもなぜか年に1度くらい、凄いピッチングをみせるのよね。ファンの間ではそれなりに話題だったわよ!」
「本当かなぁ・・・・」
左腕から放たれるキレのあるストレート。
素材は間違いなく良かったわけで、あのストレートに夢をもったファンは多くいたはずだ。
本当にたまに、ほれぼれするような投球を見せてくれたのだ。
それが安定して出せれば・・・と、何度思ったことか。
「完封も経験しているし、6年連続で完投もしているのよ!」
「なるほど・・・・」
「あとはそうね、ほら、有働と区別がつかないってのもあるじゃない?」
「知らないし! そうなの?」
「そういう人がいたのよー。馬鹿ね、右と左で明らかに違うのに」
「投げる利き腕だけ?」
まあ、そんなのもあった。
威力のある速球。
相手打者をおそれさせるコントロール。
ロマンを感じさせてくれた、なんとも憎めないサウスポーであった。
「試合を観に行って先発田辺だと、その年イチを期待したもんね!」
「喜んでいいの!?」