熊原トレード! 寂しいが、仙台で頑張ってもらうしかない
「うそーーーーーっ!」
絶叫しているのは理衣である。
その後、立ち尽くし、呆然としている。
体が震え出す。
そして。
「熊原投手がトレードでいなくなっちゃうなんてーーっ!」
この世の終わりというような声を絞り出した。
「この世界、トレードはつきものよ」
後ろから現れた結乃が、理衣の肩を叩きながら言う。
「チャンスがきたわね」
「いや、『FOR REAL』ごっこはいいから・・・・」
どんよりと暗い目つきで理衣は結乃を見つめる。
寝耳に水のニュースで飛び込んできた、熊原のトレード。
たとえ活躍していなくても、熊原ファンの理衣にはダメージが甚大だった。
「寂しいよお」
しょんぼりしている理衣を見て、さすがに結乃も可愛そうに思ったのか、トーンを落とす。
「場を変えれば活躍するかもしれないじゃない。一軍に上がって投げられた方が嬉しいでしょ」
「まあ、それは・・・・」
実際の所、ベイスターズではなかなか居場所が厳しくなっていたのは事実。
若い右腕が育ってきて、先発、中継ぎとしても入りづらかった。
「やっぱり2018年、チャンスを逃しちゃったからね」
オープン戦でアピールできず、若い京山や飯塚の後塵を拝した。
結局、一軍にあがることはなかった。
「身体能力はあるはずなんだけど、それを活かすことができなかったし、伸ばすことが出来なかったわね」
「コーチのせいだね!」
「責任転嫁しないのっ」
「一年目のときから追いかけていたのに・・・・イケメンなのに・・・・」
「大丈夫かしらね。心配よね、あの子は」
何かと天然で、本気で『大丈夫か?』と思わせられた熊原。
こうなったら、地元・仙台の地で花開いてくれることを祈るしかない。
「トレード相手は濱矢廣大、良く知らないけれど、左腕で速い球を投げるみたいね」
「頑張ってほしいね! でも・・・・クマさんが・・・・」
しばらく熊原ロスの続きそうな理衣である。
「あのへんてこなサインももう貰えないのかぁ」
「まあ、あれはルーキーの年だけだったけどね」
にこにことファン対応してくれた熊原。
寂しいが、新天地で頑張ってくれ!
「レプリカユニフォームもあるのにー!」