「開幕してから各チームと一巡したわね! ここで今の状況を軽く振り返ってみましょう」
結乃が眼鏡をかけ、指示棒を持ってホワイトボードをコツンと叩く。
「はい、結乃先生!」
「何かしら?」
手を挙げた理衣に向け、指示棒を向ける結乃。
「・・・・これには何の意味が?」
「雰囲気よ!」
女教師ぶっている結乃が堂々と言い放った。
「・・・・いや、眼鏡に白いブラウスの結乃の女教師コスプレ可愛いからいいんだけど・・・・私がセーラー服なのは・・・・」
ちょっと恥ずかしそうに理衣は身を捩る。
「さあ、一通り対戦を終えて、ベイスターズは9勝6敗! カード勝ち越しが4つ、負け越しが1つ、思っていたより良い成績ね!」
「なんとか五割をキープできれば、ってところだったもんね」
「本当ならあと2つは勝ち星、上乗せできたはずなんだけど・・・・」
指示棒の両端を持ち、悔しそうにたわませる結乃。
ヤクルト戦の初戦はリードしていたといってもわずか1点、逆転されることもあろう。
だが、3点リードしていたヤクルト戦の2戦め、そして5点リードしていたタイガース戦の初戦は勝ちきりたかった。
「但し、勝ちパターンが崩壊していたにもかかわらず、3つの貯金が出来ている。これはチーム力が上がったと言ってもよいでしょう。ええ」
コツコツとヒールを鳴らして左右に歩く結乃。
「チームの状況を見てみましょう。なんといっても先発陣が頑張っていますね」
結乃はホワイトボードに”先発”と書いて、◎をつけた。
「今永、井納、上茶谷、濱口、ローテの中で4人が安定しているのは良い事ね。京山が結果を残せなかったけれど、全員が良いなんてまずないし、そもそも京山は他の投手の怪我がなければローテに入っていなかった補欠。致し方ないわ」
「でも、まだ抹消されていないね」
「平良の状態次第、なんでしょうね」
下から上げられる投手がいれば、おそらく交代するのだろう。
「リリーフ陣は、イマイチね」
リリーフ陣には△の評価をつける。
「なんといっても、不安定! 特にパットン! 駄目よ!」
「先生、長いシーズン、不調な時もあると思います! 必要以上に叱責するのはよくないかと」
理衣が手をあげて反論すると、結乃も分かっているというように頷く。
「もちろん、これからパットンの力が必要。だからこそ、みんなでカバーよ!」
パットンの似顔絵を描き、その周囲にエスキーやらの絵を描いて周囲から守るように見せる。
なお、パットンは髭、エスキーは頭髪が特徴だ。
「打線は、普通! 点の取り方は上手とはいえないけれど、昨年よりは頑張っているんじゃないかしら?」
と、打線に○評価を付ける結乃。
「宮崎がいまだ冬眠中だけど、大和、光の下位打線が頑張っているし、筒香とロペスはまずまず。神里が好調で全体としては何とかなっているわね」
「ソト選手も打率は低いけれど6本塁打でパワーは見せているね」
「そして代打で佐野が結果を出している。チーム総得点も、打線爆発のヤクルトに続いて2位だし、全体としては頑張っていると思うわ!」
「投手、打撃、あとは・・・・」
「守備、走塁ね! ここは、守備はまあ、○、走塁は×ね!」
ホワイトボードにぐりぐりと書き記す。
「失策がなぜか今季少ないわ!」
「なぜかって・・・・やっぱり大和さん、光さんの存在が大きいと思います!」
「そうね、昨年と違い二人ともチームにもなじみ、他の選手の特徴もつかんだようだしね」
投手が安心して投げられている、という心理的にも好循環を生み出しているのかもしれない。
「特に光はキャッチングも良いし、嶺井、戸柱より明らかに1ランク以上、上よね! ああ、本当にオリックス有り難う!」
「高城選手、白崎選手も頑張ってほしいね!」
「守備はともかく、走塁は駄目ね。盗塁数は12球団で最小の4! 走れる選手が少ないから仕方ないけれど・・・・」
盗塁は難しいかもしれないが、攻撃の中での走塁は頑張ってほしい。
「リーグ全体を見ると、ヤクルトが打撃陣は自慢の爆発力を見せ、投手陣も頑張って首位ね」
「リリーフさんが頑張っているよね」
「打撃も、やっぱりコーチの影響は大きいのかしらね。投手陣が頑張れれば、このまましばらくはいきそうね」
昨年の2位はフロックではなかったのだ。
「巨人も戦力はあるけれど、弱点の中継ぎはやっぱり改善されていないわね」
「あとは、中日が結構、強いよね」
「打線は去年から結構良いしね。投手陣も、柳とか今年は良いし、怖いわね。反対にイマイチなのがカープとタイガース」
「びっくりだね!」
「とはいえまだ20試合も終わっていないからね、油断なんて出来ない。調子の悪いうちに叩けるだけ叩いておきたいわね!」
序盤とはいえ、躓きが大きくなると挽回するのは大変になる。
今のうちにカープは突きはなしたい。
「ということで、ベイスターズは2位です! でも喜んでいられる状況でもないのは確かです。この先も気を引き締めて戦っていくように、いいわね!」
「誰に言っているの・・・・?」
「国吉、あんたよ!」
「何故・・・・」
「さあ、授業は終わり。ふふ、これからは理衣ちゃん、お楽しみの時間よ」
理衣に近寄ると、背後からふわりと抱きしめる結乃。
「え・・・・せ、先生、駄目です。私達は教師と生徒という関係で・・・・」
「教師と生徒という前に、一人の女なのよ? ふふ、口ではそう言っていても、体はどうかしら?」
「あ、そ、そんな、先生・・・・(やーん、たまにはこんなのも良いカモー!)」
コスプレごっこでなんかテンション上がっている二人であった。