「笠井もチャンスをつかめなかったわね」
腕組みしながら結乃が言う。
「開幕一軍をつかんだりもしたんだけどね」
理衣も残念そうに言う。
大学中退。
BCリーグに入団して育成ドラフトで指名。
支配下枠を獲得。
妙な経歴から一軍まで這い上がってきたのは間違いない。
だけど、そこから一歩が遠かった。
「一軍で好投したときもあったんだけどね」
「ロングリリーフで勝利に貢献したときもあったしね」
「球も速くて、一軍で通用しそうなポテンシャルはあったんだけど」
「リリーフで開幕一軍切符を手にしたこともあったよね」
プロに入っても着実なステップアップはした。
それでもやはり、プロの壁は高い。
20年はほぼ一軍出場なく。
それでも21年は開幕一軍を手にしてチャンスを得た。
そのチャンスで、開幕カードで大炎上してしまい、終わってしまった。
「育成あがり、前年度までの活躍を考えれば、機会が少ないのは本人もわかっていたはず」
「ビハインドで結果を残せていれば、だったんだけど」
「1失点とかならともかく、6失点だからね」
「ううぅ」
結局、その1試合のみで抹消し、二軍でも数字を残せずに戦力外となった。
「ハマの錦織くんもいなくなっちゃうか・・・」
「そっち?」
「キャンプの時もよい感じで挨拶してくれたんだけどね」
「あの時は尾仲投手と一緒に、走って帰るところだったよね」
懐かしき奄美キャンプの思いでも遠い昔のようである。
「本人はトライアウトを受けて、わずかな望みにかけるようね」
「本人の納得いくまでやってほしいよね」
「何を言われようと、諦めずに野球を続けてプロになったのは事実なんだから、自信をもって次に向かってほしいわ」
「私たちも応援しています!」
進む先に、幸あれ。