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ベイスターズ ベイスターズ小説 青き星たちの反撃

【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 <CS1st>1.歴史と共に、今

更新日:

 

 反撃の、時は来た。

 

 ようやく、この時が来たのだ。
 見下され、馬鹿にされ、嘲笑され続けた。何年間、いや既に十数年間、浮かび上がることもなく沈み続けていた。もがいても、あがいても浮上できず、水面に差す光をうっすらとも感じ取ることが出来ず、むしろあがくほど深みに引き込まれていくようだった。

 信じられるだろうか、今、ここから見える光景が。
 ずっと、ずっと、望んでも見られなかった景色が目の前にある。
「ああ……」
 自然と呻きのような声が漏れ出た。
 待ち望んできた瞬間、立ち合ったらどれだけ大声を上げて叫び、歓喜に飛び跳ね、騒ぎ捲ることになるのだろうかと想像してきた。だが、いざこうして目の前にしてみると、叫びだすことも拳を突き上げることもできなかった。ただ、声もなく眺めていることしかできない。
「どうしたんですか、嬉しくないんですか?」
 隣で立ち上がり喜びを表現している同士に声をかけられて我にかえる。
 嬉しいに決まっている。だけど、嬉しさの感じ方、喜び方は人それぞれだ。ハイタッチする人達、抱き合う人たち、もしかしたら涙を流している人もいるかもしれない。中には、自分と同じように、放心したように佇んでいる人もいる。
 かつてのあの瞬間も少しだけ似たような感じだったかもしれない。待ち続け過ぎて、意外と声など出ないものなのかもしれない。
 大きく深呼吸をする。
 まだ、これで終わりではない。
 ちらと視線を移すと目に入ってくる文字。

『歴史と共に今、反撃開始』

 そうだ、まだ反撃は始まったばかり……いや、これから始まるのだ。
 今まで、殴られっぱなしだった。
 殴られて、殴り返しても避けられ逆に殴り返される。
 転んで尻餅をつき、立ち上がろうとしたところを殴られ、地面に這いつくばったところを蹴り飛ばされ、地を舐め、泥を啜り、もがきのたうち回る様を見下ろされていた。

 屈辱だった。
 そのうち、屈辱だったことすら忘れそうになり、抵抗しようとするから苦しいんだ、などと思いそうにもなった。
 カードゲームでいえば、

『ずっと俺のターン!』

 を相手にやられていたようなものだ。
 だけど、俺達は身を起こした。
 忘れていたことを思い出し、身に叩き込まれた屈辱を胸に奮い立たせ、ここまでやってきたのだ。
 立ち上がる。

 

 - 2016年10月8日 -

 

 東京ドームの半分は『青』で染まっていた。
 こんな光景を目にするのは初めてだった。いつも9割方オレンジ色に染められた中、わずかに与えられたビジター籍に陣取る数少ないファンたち、というのがデフォルトだった。名古屋でも大阪でも広島でもない、横浜からも決して遠くないこの東京の地で、阪神や広島以上に集まるファンの数は少なかったのに。
 青き男たちに、大きな声援が投げかけられる。
 DeNAとなって初めて応援を始めた若い男性が楽しそうにグラウンドを見つめる。
 明るく楽しくなった球場に、イケメン選手を契機に応援し始めた若い女の子が元気よく声を上げる。
 優勝から暗黒時代をずっと見てきた中年の男性が感極まった表情をしている。
 横浜大洋ホエールズ時代、遠藤投手のユニフォームを着ている初老の男性がいる。
 暗黒時代に絶望し、DeNAになってから復帰したファンが祈るように両手を組んで選手に目を向けている。
 そこには様々な人たちがいたけれど、想いは同じ方向を向いているはず。
 そして、その思いを背に受けて戦う男達。
 先陣を切って立ち向かう男は、DeNAとなってからの初めてのドラフトで入団してきた男。
 開幕戦で勝利し、敵地のビジター応援席すら相手ファンで真っ赤に埋められた試合でも勝利した男。
 常に最も厳しい戦いに先陣を切り、このクライマックスにおいてもその身を盾として立ち向かう男。
 勝利数?
 それがどうした。
 我々ファンは知っている、どんなに傷ついても弱音を吐かずチームのために投げてきたことを。
 これから始まる三日間は、きっと、今までのどんな三日よりも熱く、忘れられない三日間となるはずだ。

 ――さあ行こうか、井納翔一。

 暗黒の時代を、終わらせるために。

 

その2へ続く

 

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