「さあさあ、練習試合が開始されるわよ!」
結乃が待ちきれない感情を持て余しながら言う。
「いよいよだね!」
理衣も元気よい。
「いやぁ・・・・ここまでくるのに苦労したわぁ」
「私達は何もしていないけどね」
「いやいや、そんなことない、苦労の連続よ!」
「自粛だけどねぇ」
■横浜ベイスターズ (1994 - 1999)
■通算 2勝 5敗
「今回はぁ・・・・」
結乃がためる。
「いや、タイトルで知っているけれど」
理衣がさっくりと突っ込む。
「苦労人、西清孝よっ!」
「これまたマイナーどころをついてくるね」
「まあね、それもまたよしってね」
「自分で納得している・・・」
南海・ダイエー、広島、そして横浜へと渡ってきた西投手。
「何せ、南海・ダイエー、広島では未勝利だったからね!」
「もともと、広島で戦力外になって、横浜のテストを受けたんだよね」
「そう、でも打撃投手兼任での入団、実質的には打撃投手メインだったのよね」
球団としても、選手としての期待はさほどしていなかったのだろう。
それでも西はくさることなく打撃投手をして、二軍で実績を積んだ。
そして横浜でもとうとう一軍で投げることになった。
這い上がって来たのである。
「1997年! ついにプロ初勝利!」
「おめでとうございます!」
「印象に残っているのは8月24日の巨人戦よね。2-2の同点で迎えた9回表、味方のエラーもあり一死満塁のピンチ、打席には代打の切り札、吉村!」
「絶体絶命のピンチだ!」
「カウントは2-3、押し出し四球も許されない中で西が投じたのはワンバウンドになるボール! だけど吉村はスイングして三振!」
「やった!」
「その裏、駒田の犠牲フライでサヨナラ勝ち! プロ通算2勝がいずれもサヨナラ犠飛というのも凄いわよね」
「他にいなさそうだよね」
プロ13年目での初勝利はプロ野球記録である。
1998年、チームが優勝した年は黙々と敗戦処理をこなした。
他の選手達からも信頼されており、プロ通算2勝、華やかな成績を残せなかったが、現役引退時には引退試合が行われて胴上げまでされている。
「引退試合が出来ない選手も多い中、それだけ慕われていたってことよね」
「人柄、仁徳だね」
地味で目立つ選手ではなかった。
それでも、文句を言わず黙々とチームのために動く。
チームのために、目を見張るような派手な活躍できなくても、真面目に練習に打ち込む。
そういう選手はきっと必要なのだ。