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【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 8.<過去>消えゆく優勝戦士達

更新日:

 

 散々なシーズンだった。
 ベイスターズは最下位、しかもただの最下位ではない、断トツの最下位だった。

・49勝86敗5分
首位のジャイアンツからは35.5ゲーム差
5位のカープとでさえ14.5ゲーム差
・勝率は、 .363
・監督が途中で休養に入り、ヘッドコーチが代行

 最下位になることはあるにせよ、前年度まで連続でAクラスをキープしていた。シーズン序盤から負けが込んでいたから覚悟していたとはいえ、やはり現実を見せられるとキツイものがある。
「もう、今年のことは忘れましょう。来年は監督も変わって立て直しますよ。やっぱりね、横浜というチームに合わない監督だったんですよ」
 年末、忘年会という名目で永江と飲みに行くことになり、その場で永江がそう言った。その言葉に頷けるものはあるものの、監督の首を挿げ替えただけで成績が良くなるのだろうかという疑問はある。
 とはいえ、わざわざネガティブなことを口にする必要もないし、『忘年会』なのだ。今日くらいは嫌なことを忘れ、明るい未来を夢見ても良いだろう。決して、そのためのネタがないわけではないのだから。
「そうだね、それにドラフトで獲得できたのも良い選手っぽいし」
「えーと、今年は確か」
「村田だよ、日大の」
 大学野球には詳しくないが楽しみな選手であるとは思う。スラッガーで期待が持てそうなのは勿論だが、何よりも入団時の会見、言葉が巡の胸に、いや他の横浜ファンに胸にも響いたことだろう。
「いいですよね、堂々と、“巨人が嫌いですから”って言ってくれて。巨人を倒そうっていう気概を持って入ってくれるのが」
「まったくだ。ずっと巨人にはいいようにやられてきたし、そういう選手が増えてくれると嬉しいよな」
「あと期待といえば古木でしょう。いよいよ力を発揮し始めましたかね、今年後半のホームラン量産には痺れましたよ!」
 ビールをお代わりしながら嬉しそうに言う永江。巡も全く同じ思いで、古木の放つホームランには夢があった。チームの成績が惨憺たるものだったからこそ古木の出場機会が増えたのはあるのだろうが、若き大砲が芽を出してきたのだから負けたのも無駄ではなかったと思いたい。
「村田が期待通りに打てるなら、左の古木、右の村田で協力クリーンアップが構成できますね!」
 左右の和製大砲が横浜スタジアムの外野スタンドへ、右へ左へとホームランを量産する。そんな光景を脳裏に描き、酒の肴にて話す。おそらく何年も、何十年も前から同じような会話がどこのチームのファンの間でもかわされてきたであろう。だけど、そのうち果たしてどれくらいが実現しただろうか。
 夢と期待とアマ時代の実績だけで実現すれば、全球団が夢のような打線を組み上げて相手チームを粉砕していることだろう。そんなこと滅多にないから、こうしてどこにでもある居酒屋で飲み、希望を語り合うのだ。
「それに吉見が二桁勝利あげたのは大きいな」
「確かに、来年も楽しみですよね」
 しかし、明るい話もそこで終わる。
 ぶっちぎりの最下位なのだ、当たり前だが主力を張った選手達で好成績をおさめた者は少なく、話すとなるとネガティブにならざるを得ない。巡はそれでも構わないのだが、弱い時代を知らない前向きな永江に対しては口にしづらい。
 永江とポジティブな会話をしながら、頭の中で思い浮かべるのは反対の事。

 2000年、佐々木がメジャーに行った。シーズン終了後、。また、進藤、戸叶がトレードでオリックスに移籍。
 2001年、シーズン途中で波留がトレードで中日に移籍。そして何より扇の要、谷繁がシーズン終了後にFAで中日に移籍した。

 優勝時のセンターラインが石井を除いてごっそりいなくなったわけで、その中でも谷繁が球団からいなくなったことが最大のダメージだったのではないだろうか。それまではなんとか踏みとどまっていたものが、谷繁という最後の砦がいなくなったことで一気に崩壊したのだ。
 そう考えると、前年三位からの断トツ最下位というのも頷けるものがある。せき止めていた人がいなくなったのだ、崩落を止められるはずもなく穴は広がり続けるだけ。
 アルコールが入って体は火照っているはずなのに、なぜか心の奥底から震えがくるような寒さに襲われた気がした。
「……どうかしましたか?」
 酔っているはずの永江が、訝し気な表情で見つめてくる。
「いや、なんでも。飲みすぎたかな」
「またまた、まだそんな飲んでないじゃないですか。ほら、次、何飲みます?」
 気のせいだろう。
 巡は自分にそう言い聞かせて忘れることにした。

 後日、その日の悪寒を思い出すことはなかったが、まぎれもなく今後のベイスターズを予感していたものだった。

 そう、ここがまさに本当の意味での「暗黒時代」の開始だったのだ。

 

その9につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース
4.歓喜の瞬間、そして
5.<過去>暗黒の始まり 6.<過去>悔しさの強さ

7.<CS1st>がっぷり四つ

 

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