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【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 4.歓喜の瞬間、そして

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 遠藤が去ってチームがホエールズからベイスターズに変わるが、弱さは変わらなかった。

 巡も高校へと進学し、昔と同様に野球好きの新たな友人を得てより一層、深くはまっていくことになる。
 単純に応援するだけでなく、ドラフト会議では誰を指名するか、トレードするとしたら誰を出して誰が欲しいかを考え、雑誌に書かれた様々なデータを読んでは脳内で一人ペナントレース戦略を組み立てた。野球が好きな人間なら通るような道を、巡もまた当然のように歩んでゆく。

 流れが変わってきたと思えたのは、大学生以降になってからである。大学では残念ながら親しい友人で野球好きな者がいなかったのだが、この頃になるとネットが普及し始めており、インターネットを介して情報を得て、顔も知らないファンとの交流を楽しむことが出来ていた。そして横浜はといえば、有望な若手たちが試合に出て結果を出し始め、彼ら全員がこのまま巡調に成長すれば面白いことになるのではないかと思えるようになっていた。

 それでも悲しいかな弱小球団のファンの性か、本当に優勝できるなんて心の底から信じることは出来なかった。
 首位に立っても安心したことなどなかった。夏以降は、応援している巡の方が胃の痛くなるような毎日であった。下から追いかけている時、五ゲーム差というのはなんと絶望的に遠い数字だろうと思ったものだが、首位に立つと二位チームとの五ゲーム差なんてあっという間に詰められてしまいそうな数字にしか思えなかった。
 苦しいと同時に、これこそが優勝争いなのかと実感した。この苦しみを味わってしまうと、今までの野球観戦は一体何だったのかと思うほどに熱中し、興奮し、日々を過ごした。そう、巡はこの年初めて、本当の意味でのプロ野球ペナントレースを楽しんだのだ。

 優勝へのマジックナンバーが出て、その数字が減っていっても安堵は出来ない。残り少ない試合の多くに二位チームである中日ドラゴンズとの対決を残しており、負け続けたら逆転されるかもしれないといつも悲観的なことが脳裏をよぎっていた。

 そんなことばかり考えていたせいだろうか、現実に優勝した時、巡は興奮こそしたが叫びだすようなことはしなかった。チームとしては実に38年ぶりの優勝だが、巡にしてみれば生まれるより遥か前のことであり、応援し始めてから初めて味わる優勝である。喜び方というものが分からなかったし、信じられないという思いもあった。それでも嬉しさと興奮に満たされ、テレビの画面で歓喜に沸きあがる選手達を見て、静かに一人ガッツポーズをした。

 本来なら球場に観戦に行きたかったが、この時すでに社会人として働き始めており、しかも下っ端だから急な休みを取ることが出来なかったのだ。

 優勝を決めた翌日、スポーツ新聞を全紙購入した。また、優勝記念で発売された本を見つけたら買っていた。何度読んでも読み飽きることなどなかった。
 日本シリーズにも勝って日本一となり、本当に夢見るような年だった。
 同時に、明るい将来をもこの時は確信していた。
 主力選手の多くは二十代後半と脂の乗り切った世代であり、ここからまさに黄金時代が始まるのだろう、今までの苦しい時代はこの先の黄金期の為にあったのだと多くのファンが信じていた。

 もちろん、巡も同様である。

 だが、この時は知らなかった。恐らく誰も気づいていなかっただろう。
 まさかこの三十八年ぶりの優勝という快挙こそ、この後に待っている底の見えない沼への第一歩だったということ。
 分かるはずがないし、考えるはずもないではないか。
 優勝したのだから。
 今まで何年も苦労してきたのだから。

 でも、今までの苦労など実は苦しみでもなんでもなかったと気付かされるのは、そう遠い日のことではなかった。
 そう、闇はすぐ近くにまで迫ってきていたのであった。

 

その5につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース

 

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