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ベイスターズ ベイスターズ小説 青き星たちの反撃

【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 9.<過去>2003年、5月

更新日:

 

 2003年のシーズンは多くのファンが期待を持っていた。

 まず監督が森監督から山下監督に交代となった。

 名将と呼ばれる森監督だったが、横浜という球団には合わなかったのだと皆は言う。昔から細かい作戦を立てて試合やシーズンを進めるより、よくいえば大らかな野球をするチームだった。

 またイメージとしても『暗い』と言われてしまい、そりゃもちろん暗いチームよりは明るいチームを人は望むものであろう。

 後を継いだのはファン待望、球団生え抜きOBである山下大輔である。それまでも横浜でコーチを務め、優勝時はヘッドコーチでもあった。だからこそファンは期待をした。最下位になったとはいえその前年まではずっとAクラスだったのだ、有望な若手も出てきており、いきなり優勝というV字回復は無理だとしても、Aクラスに復活することは十分にあり得るだろうと考えていた。

 球団も山下新監督を強力に後押しした。

 現役メジャーリーガーのコックス、FAで若田部健一、トレードで中嶋聡を獲得、投手も打者も大きな補強を行ったのだ。

 さあ、去年の借りを返しにいこう。

 

 

 巡は仕事で悩んでいた。

 チームリーダーとしてメンバーをまとめ、後輩を指導し、上司からも信頼されて仕事は任されていると思う。ある意味、自分のチームを自由に、好きなように動かせているわけで、やりやすい。

 だけど、このままで良いのだろうかという気持ちが日に日に強くなっていく。

 会社が嫌いだとか、仕事が嫌だとかいう訳ではない。ただ、決してベテランというわけでもない、社会人としては若造にしかすぎないのに、狭い世界だけで謳歌していてこの先の成長はあるのだろうかと、ふと思うのだ。

 今の会社の部署の仕事しか知らない。同世代の連中はどのような仕事をしているのか、どのような考えを持っているのか、どのようなスキルを持っているのか。自分が出来ない人間だとは思わないが、今の会社の仕事というか雰囲気が『緩い』ということはなんとなく肌で分かる。

 居心地が良く、これで給料が貰えるならば十分ではないか。

 いや、でも――そんな風に考える。

 そういう思いが脳裏をよぎるのは決して不思議なことではない。社会人になって数年たつと、多くの者が同じようにモチベーションが降下するらしい。それまでは右肩上がりに成長して出来ることも増え、仕事も楽しいのだが、一段落を迎える時期。現場での仕事から、リーダーとして管理する割合も増えてくる。新しく優秀な後輩も入り、ぐんぐんと伸びてゆく。だから、思うのだ。

 仕事の多忙さと心に持つ悩み、それらに悶々としている間に何がどうなっていたのか分からないが、ベイスターズが大変なことになっていた。

 その日、時間が少し空いたところで久しぶりにチームの成績をネットで見て自分の目を疑いたくなった。あまり勝てていないということはなんとなく分かっていたが、それでもまさか5月時点で首位から20ゲーム差離されての最下位とは信じられないレベルである。

「え、え、何コレ、マジで?」

 業務終了後の時間とはいえ、職場にも関わらず思わずそんな声が出てしまった。それくらいのありえなさである。

「どうした神門、変な声出して」

「あ、いえ、すみません」

 上司が背後からモニタを見てくる。

「なんだ野球か? いやベイスターズには、今年はお世話になっているよ」

「お世話にって……」

 話しかけてきた上司も野球好きで、タイガースファンである。お世話になっているということは、阪神をアシストするような形になっているのだろうか。そう思って成績をよくみてみると、なんと5月の試合終了時点で、ベイスターズは対阪神戦11連敗中で、開幕戦での1勝しか出来ていなかった。そりゃあ、阪神ファンからしてみれば有難いことだろう。

 阪神戦もそうだが、他の球団にも満遍なく負けて、4月はなんと4勝しかできておらずこの月だけで借金を14も作ってしまっている。

「GWを迎える前にシーズンが終わっていたとかご愁傷さまだな。ま、また来年があるさ」

「ま、まだ今年だって、優勝の可能性が消えたわけじゃないですから」

「可能性はそうだろうけど、本気で思っているの?」

「そ……そんなの、当たり前じゃないですか」

 答える際に一瞬、躊躇してしまったことに気付かれただろうか。もちろん厳しい状況だけど、ゼロでない限りは可能性がある。

「そうか、まあ応援頑張って」

 軽く巡の肩を叩いて上司は去っていった。

 励ますような言葉だったのに、言いようのない悔しさが巡の体内を駆け巡る。

 上司の言葉は励ましているようでいて、実際には見下しているものだった。本人が意識しているかどうかは分からないが、明らかに自分の方が上で余裕がある姿を見せられていた。

 だけど、それに対して巡は反撃する術を持たない。それどころか、客観的に見れば頷かざるを得ないのだ。ベイスターズの成績を見てしまえば。

 改めて成績を見る。

 打線はそれなりに打っているように思える。

 ウッズ、村田、鈴木が既に二桁のホームランを放ち、チーム本塁打数は他チームを上回っている。

 それでも勝てないのは、それ以上に打たれているか、あるいはここぞという時に打てておらず接戦に勝てないから。

「畜生、なんだよこれ。いつの間にこんなことになっていたんだ。ついこの前まではこんなんじゃ」

 こんなはずではなかった。

 多くの人がどれだけ同じことを思い、口にしてきたことだろうか。巡自身も、かつてホエールズやベイスターズを応援していた時に同様のことを考え、言葉にしてきた。

 だけどなぜだろうか。

 その時とは根本的に違う何かを感じるような気がした。

 

その10につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース
4.歓喜の瞬間、そして
5.<過去>暗黒の始まり
6.<過去>悔しさの強さ
7.<CS1st>がっぷり四つ
8.<過去>消えゆく優勝戦士達

 

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