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【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 6.<過去>悔しさの強さ

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「久しぶりだってのに酷い試合でしたね、神門さん」
「全くだな」
 横浜スタジアムでの試合観戦後、永江と近くの店に入って乾杯し、試合についての感想を述べあう。

 永江が最初に言った通り、試合の内容自体は酷いものであった。いや途中までは良かったのだ。無得点で進んだ六回に先制して今日はいけると思った直後の七回、相手打線の集中打で直前の先制点はなんだったのかと言いたくなる大量失点。最終回にも失点して終わって見れば大差で負けているという具合であった。
 試合が終わった後なので決して早い時間ではないのだが、週末で翌日は仕事も休み、さらに永江と会うのも久しぶりということで、このままダラダラと飲み続けたい気分であり恐らくそうなるだろう。
「今日は勝てそうだと思ったんですけどね」
「そう思えたのは一瞬だったね」
「先制した直後だけに腹立たしいですよね、まったく」
 ジョッキに半分以上残っていたビールを一気に飲み干し、頬を紅潮させながら言う。髪の毛を明るい茶色に染め屈託なく笑う永江は大学四年生で、ネットで知り合った横浜ファンであり友人である。
 優勝した年の前年くらいから気持ちも盛り上がり、チームを応援する掲示板に巡も時々書き込みをするようになっていた。試合の感想、選手たちへの思いについて真面目に、端的に書いていたのだが、それに反応してコメントをくれたのが永江だった。

 やり取りをするうちにネット上ではすぐに仲良くなったが、一緒に試合観戦に行かないかという誘いには最初は抵抗があった。ネット上の知り合いと会うということ自体が未経験だったし、ネット上では気があっても実際の本人とどうなるかはまた別の話。ネット上と同じ性格とも限らないのだ。
 それでも数々のやり取りから永江は変な奴ではないし、巡のことを騙すような人ではないと思えていたし、巡も次第に会いたいと思うようになっていた。今まで親しい友人で横浜のファンがおらず、ペナントレースで盛り上がっている中で共通の話題で盛り上がれる友人が欲しいという当然の欲求が高まっていたこともあるのだろう、巡は思い切って永江とリアルで会うことにした。
 緊張しながら出向いた巡を迎えてくれたのは、当時まだ高校生だった永江だった。比較的年も近くて違和感もなく仲良くなり、優勝した年はそれこそ二人で何回も球場に足を運んで喜びを分かち合った。
 その後は巡が実家から離れたこと、仕事が忙しくなったことから一緒に球場へ行くことは一気に減ったが、メールのやり取りは今もなお続いている。当時高校生だった永江が、既に成人してアルコールを口に出来るようになったことに、なんとなく感慨のようなものを覚える。

「しっかし、なんなんですか、今年の弱さは異常ですよ。去年は三位だったのに」
「三位といっても、以前と比べて成績落としながらの三位だからね。とはいえ、ここまで勝てないとは思わなかったけれど」
「なんか神門さん、冷静ですよね。もっとこう、悔しくないんですか」
 ビールのジョッキを置いてテーブルに肘をつき、目を見開いて巡のことを見つめてくる永江。
「悔しいに決まっているだろ」
「その割にはこう、悔しいって感じがこう、ぐわーっと感じられないんですよ。九十八年のときはあんなに盛り上がったのに、今はすげー冷めてるって感じですよね」
「そんなことはない、と言いたいけれど、確かにあの年に優勝して燃え尽きた感がないとは言えないかもしれんなあ」
 小学校の低学年からファンになって応援し続けて十数年、優勝どころか優勝争いすら初めての経験で盛り上がり、燃え上がり、もしかしたら死ぬまでに見られないかもしれないと本気で思っていたところで優勝を目の当たりにし、満足してしまった感は否めない。三十八年ぶりの優勝というけれど、次の優勝が三十八年後だとしても良いとさえ思えるような気がした。
 あの優勝した年と比べられて、それで『冷めている』と言われても当たり前なのだが、永江はそう感じないらしい。

「永江くんがファンになったのは、優勝した前年からなんだよね」
「そうですね、野球とかあまり興味なかったんですけれど、勢いに巻き込まれたというか。俺も横浜育ちですからね」
 ファン歴の短い永江は弱かったBクラス時代のことを自分の身として味わっていない。強いチームだから応援していて楽しい、面白い、そう思っているのかもしれない。だから優勝したところで燃え尽きたりせず、翌年も、そのまた翌年も勝ちたい、勝利の美酒を味わいたいと思っているのかもしれない。そういうファンにとって、弱くて負ける姿を見せられるのは堪らないことなのかもしれない。

 もちろん巡だって悔しいことに変わりはないが、あの優勝があったから多少の弱さでも笑って済ませられるところがある。かれこれ数年もAクラスを維持しているなんて初めてのことだし、弱い時代に耐えてきたのだから“多少の”弱さで参るほど精神的にやわなファンではないのだとも自負している。
 ちらと永江に目を向ける。
 “強いから応援する”、そんなファンを否定するつもりはない。好きになる理由は人それぞれで、自分と考えが異なるだけである。
 ならば永江はどうなのだろう。もし、このまま弱いままであったならば応援していてもつまらない、ファンをやめると言いだすかもしれない。

「ん、なんですか、俺のことじっと見ちゃって。なんかついてます?」
「ああいや、特に何も」
 曖昧に誤魔化す。わざわざ口に出して確認するのも変な気がするし、永江が気分を悪くするかもしれない。また仮にファンをやめたとしても、それを非難できる立場でもない。
「もう少し、飲む?」
「いいですよ、明日はどうせ朝からバイトですし」
「いやいや、それ良くないんじゃない?」
「大丈夫ですって。店員さん、おかわりお願いします」
 手を上げて店員に追加注文する永江を見ながら、仮に永江がファンをやめるなんて言いだしたらどうしようかと、巡は内心で考えるのであった。

 

その7につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース
4.歓喜の瞬間、そして
5.<過去>暗黒の始まり

 

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