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【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 7.<CS1st>がっぷり四つ

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「凄い、本当に凄い」

 三塁側内野席を確保できたとはいえビジター用応援席ではなかった。普段の東京ドームであれば、三塁側といえどもビジター用応援席以外ではやはりジャイアンツファンの姿が多く、どうしても遠慮してしまうところがあった。
 しかしながら今日、クライマックスシリーズ・ファーストステージの第一戦、三塁側内野席の多くはベイスターズファンによって席が埋められていた。
 もちろんジャイアンツファンの姿も見えるが、いつもに比べたら圧倒的に少ない。巡が座っている席の周辺も、多くはベイスターズファンだったので非常に心強かった。

「そんなに凄いの?」
 巡の妻である夕はDeNAになってから試合観戦に連れて行ったことでファンになっており、東京ドームでの試合は殆ど観たことがないから、そういった実感があまりないのだろう。
「そりゃもう、歴史的だって」
 ジャイアンツファンはチームが強いことに慣れているから余裕もあるのかもしれない。だからファンのマナーは良いと思うし、対戦チームのファンがいても何か文句をつけてくるような人も見かけたことはない。
 それでも周囲をジャイアンツファンに囲まれていたら、小心者の巡としては大きな声で応援しづらかったのは確かだった。だけど今日は違う、一緒に応援することの出来る仲間がすぐ近くに沢山いるのだ。
 おそらく、同じように感じているファンもいるはずだ。
 巡は心強い気持ちで試合の応援にと臨んだ。

 

 だがもちろん、ファンの数がいつもより多いからといって圧倒できるような相手ではない。優勝を逃したとはいえ、CSが導入されて以来CS出場を逃したことがないジャイアンツ。対してベイスターズはCSが導入されて今年初めての出場である。ペナントレースも借金2での3位であり、実力、経験で大きく劣っていることは事実であって、ファンの巡でも否定できない。

 長年にわたって大きく負け越して辛酸を舐めさせられ、ジャイアンツファンから馬鹿にされても言い返す材料もなかった。そんな相手なのだ。
 菅野投手が登板を回避しているのは不幸中の幸いだが、それでも今まで全く勝ったことのないマイコラス投手が相手では苦戦必至。
 事実、マイコラス投手に付け入るスキを見つけられず、一方で先取点を許してしまう。気合いの入った投球で井納は踏ん張っているが、厳しい戦いであることに変わりはない。なんとか、接戦のまま後半までくらいついてほしい。
 そんな、試合序盤とはいえやや重苦しい試合の雰囲気を変えたのは、いつも空気を読まないような打撃をしている男だった。

 それは、一振り。

「え、打った? どこいった……え、入った、入った?」
「なに、ホームラン? やったー!」
 慣れていない東京ドームで打球の行方を見失ってしまったが、梶谷の一撃はスタンドに吸い込まれていったようだ。
 あっさりとクルクル三振を繰り返すかと思えば、他の誰も全く打てないような試合で決勝ホームランを打つような男、梶谷隆幸。2013年の『スーパー梶谷』の再来を夢見て果たせていないが、それでも長打と快足を併せ持った、今のDeNAに欠かせない選手。
 立ち上がり、喜びを全身で表すファンの人達。
 単なる同点弾という以上の意味を持つ一撃。
 これはそう、ベイスターズにとって記念すべきCSでの初得点であり、これから積み重ねていく第一歩なのだ。

 まだまだ、これからだ。
 確かにマイコラス投手は強敵であり、今日の調子も悪くない。
 だけど井納だって負けていない。
 がっぷり四つに組んだ試合は、中盤へとうつってゆく。

 

その8につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース
4.歓喜の瞬間、そして
5.<過去>暗黒の始まり
6.<過去>悔しさの強さ

 

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