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【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 10.<過去>底の底

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 今の仕事が嫌いなわけではない。それでも新たな刺激や成長を求める気持ちは日に日に高くなっていく。
 一度考え出すと思いは強くなっていくばかり。今の会社、仕事に対する気持ちが離れて行き始める。
 そうして巡はとうとう転職活動を開始し始めた。もちろん、職場にはそのことを一切、話していない。
 もしかしたら逃避だったのかもしれない。もっと職場で頑張って自分を成長させていくという選択肢だってあったのに、巡が選んだのは他の道だった。
 現実から目を背けたかったのか。
 それは、ベイスターズの低迷から逃げたかった心とも一致していたのかもしれなかった。

 夏に入ってもベイスターズの成績は一向に上を向かず、毎月確実に借金を増やして記録的な敗戦ペースを刻んでいた。
 優勝の可能性は消えていないと口にしたあの日が恥ずかしく思えるほどの負けっぷり、阪神ファンの上司の機嫌は良くなる一方で、巡に対しては「少しくらい負けてあげたいよ」などと冗談だか哀れみだか分からない言葉をかけてくるくらいである。

 ストレスはたまり、何か別のことをしていたかった。何もしない時間があると、嫌なことばかりを考えてしまいそうだったから。
 前向きなのか後ろ向きなのかよくわからない転職活動を続けるが、世の中には色々な会社があり、自分がいかに物知らずであったかを理解することができたのは間違いなくプラスだった。
 改めて自分の持っているスキルを見つめ直す機会を得てみると、誇れるようなスキルを持っていないことに愕然とする。今の職場、今の仕事であれば問題はないが、他の会社で潰しの効くようなスキルがない。マネジメントやコミュニケーション、ロジカルシンキングのようなヒューマンスキルは別だが、SEとして働く巡に強く求められるのはそれらではないだろう。

 自分の立場を理解し始めると、転職に対する考え方も変わってくる。逃げ出すような気持ちもあるが、それは今の会社では求めるスキルを得られない、そういう焦りである。能力を高めるため、新たな知見を得るために異なる環境に身を置きたいという希求。
 後ろ向きな前向きさ、そんな言葉は間違っていなかった。

 更に転職活動に力を入れる一方で、野球に対する気持ちが薄れるのは成績的にも仕方ないことだったか。
 8月も大きく負け越し、『シーズン100敗』という数字が現実的に視界に入ってくるようになる。
 いくらなんでもそこまで負けることはないだろうという、何の根拠もない楽観的な希望。
 正直、この頃になるとファンも考えが前向きではなくなってきている。優勝を目指す、Aクラスを目指す、なんてものではない。一つでも上の巡位にという思いすらない。視線は上に向かず、常に下ばかりに向けられる。
 即ち、

『100敗だけはしたくない』という思いである。

 果たしてその思いが力となったのかは分からないが、9月は月間成績が初めて勝ち越し、100敗を逃れられた。
 そのことにホッと安堵し、むしろ満足感さえ覚えてしまいそうな自分に驚く。いつの間に、その程度の目標しか持てなくなっていたのか。その程度の目標で満足するようになってしまったのか。
 何が“大チャンス打線”だ、そんなものを掲げたところで勝てなければ意味がない。打っているようだけど得点は少ないし、守備や投手力をおろそかにして上位にいけるはずなどないだろう。
 頭の中でそう文句を言ったところで空しくなるのは分かっていた。

 シーズン開始前、山下大輔監督に期待し、攻撃力を前面に押し出した“大チャンス打線”を肯定し期待していたのは他ならぬ自分たちファンではないか。
 古木に、コックスに、村田に、期待をのせていたではないか。
 誰に裏切られたとか、誰が戦犯だとか、そういう話ではない。
 そうして横浜ベイスターズは、2002年より更に酷い成績で2003年のシーズンを終えた。

・45勝94敗1分
・首位のタイガースからは42.5ゲーム差
・5位のカープと22.5ゲーム差
・勝率は、 .324

 尚、最終戦ではカープを相手に8回を終えて2-1でリードしていたが、9回にデニーが4安打と1四球で2点を奪われて逆転負けで終えていた。
 始まりも終わりも悪い、惨めな一年だった。

 同時期、巡は転職活動を終え、年明けから新しい会社で働くことが決まっていた。

 

その11につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース
4.歓喜の瞬間、そして
5.<過去>暗黒の始まり
6.<過去>悔しさの強さ
7.<CS1st>がっぷり四つ
8.<過去>消えゆく優勝戦士達
9.<過去>2003年、5月

 

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