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【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 15.<過去>心の弱さ

更新日:

 

 2011年9月

 

 新しい仕事に苦しんでいた。

 ここ数年で昇格し、いわゆる“管理職”という責任のある立場になっていたが、そのためか今まで上司のフォローがあったものがなくなり、逆に突き放されたように感じる。それもそうだ、管理職になったということは、それだけ責任のある仕事ができると見なされているからで、分からないことも含め自分で色々と切り開いて身に付けていかなければならない。

 とはいえ、それまではあくまでプロジェクトをリーダーとして推進し、チームをまとめ、品質を確保し、納期に間に合わせるという役割で比較的分かりやすかったものが、人件費や外注費や配賦や諸経費や仕掛など換算して利益を何パーセント以上出さないといけないとか、法令巡守やコンプライアンス遵守に伴う作業とか、調達や短歌交渉とか、今まで意識していなかったタスクが降りかかり、しかも教えてくれる人はいない。

 加えてメンバーからの要望や要求を吸い上げてメンバーが満足するように各種調整をしたり、時には過剰な要求を納得して取り下げさせたり、仕事の範囲が増えて尚且つ気を遣うことが多い。

 役割もそうだが、業務自体も今までと異なる顧客とシステムを担当することとなった。顧客が違えば文化も異なるもので、前までの仕事のやり方や考え方が全て通じるわけでもなく、分からないことが多くてメンバーからも、「この人大丈夫?」と思われているのではないだろうかと内心で不安になる。

 自分の出身と異なる球団で監督をすることになったらこのような気分になるのだろうかと、益体もないことを考える。

 勤務中、会社で弱音を吐くことも出来ないしそういう姿を見せるわけにもいかず、ただ一人抱えて家でも思い悩む。

 妻の夕に相談できればと思うが、家に仕事をあまり持ち込みたくない。話すだけでも楽になるとはよく言うが、あましそういう姿を見せたくないという変な意地とプライドもあって出来なかった。

 仕事がそのような状況だったので野球もなかなか見ることは出来ていないが、試合結果だけは確認している。ただ、見ることによって気合が入るわけでもなく、むしろ見なければ良かったと気が滅入ることの方が多い。

「ああ、何が忙しくて毎日こんな遅くまで働いているのかもよく分からん……」

 残業して時刻は既に22時を過ぎているが、まだ帰ることも出来ない。仕事はたくさんあるのだが、それなのに今のような言葉が出てきてしまうのが問題だろう。きちんと原因を突き詰め、必要な対策をうって解決していかねばならない。

 頭の中では分かるのだが、目の前に急ぎの仕事があるとそれを片付けねばならず、その仕事に追われているうちに次の仕事がやってくる。これが「悪魔のスパイラル」だろうか。

 どうしようか、今日は少し早めに23時になる前に会社を出ようか、そんな風に考えている時点で駄目なのだが。

 気分転換に、久しぶりにネットで試合結果を観てみると、今日もベイスターズは負けていた。順位表を見ると、Aクラスはおろか5位にあがることも難しそうであり、頬杖をつきながら力なく息を吐き出す。

「野球ですか? 今日、スワローズ勝ちました?」

 不意に後ろから声をかけられて少し驚く。

 普段なら後ろから見られないようタイミングに気を付けて見るのだが、疲れていたのか油断をしていた。業務時間外であるし問題はないのだが、やはりなんとなく後ろめたい。

「ヤクルトは勝っているね」

「よーし、いけるいける!」

 嬉しそうに笑うのはチームメンバーである岡林だった。彼はそういえばスワローズファンだったということを思い出す。

 ヤクルトは優勝を争っており、応援しているファンとしては楽しいだろう。

 そうして岡林と少し話をしていると、他チームの先輩社員が近づいてくる姿が見えた。

「鴻江さん、巨人は今日、負けてますよ」

 訊かれる前に先に答えると、ジャイアンツファンの鴻江は少し困った表情をする。

「負けた? 痛いなーそれは」

 苦々しい表情をする鴻江。中日、ヤクルト、巨人の優勝争いで、他の2チームが勝っているとなると、負けるのは確かに苦しいだろう。

 そう、想像することはできる。

「ベイスターズは今年もなかなか厳しいね」

「え、神門さん、ベイスターズファンだったんですか?」

「……そうだよ」

「へえ、知らなかったです。でもヤバくないですか、ベイスターズ。球団売却される話とか出ているじゃないですか、ええとどこでしたっけ、新潟の方に行くとかなんどか」

「なんとか、横浜には残りそうだけど」

「そうなんですか。でも、ベイスターズのファンって辛くないですか。応援していて楽しいんですかね」

「おいおい、岡林」

 言い過ぎだと感じたのか、鴻江が軽く岡林を制してくれる。

「あ、すみません」

 気が付いたのか、素直に頭を下げる岡林。

 分かっている、別に悪い男ではないし、先の発言も当たり前だが悪意があって口にしているわけではない。

 最近の横浜の成績を目にしていれば、そのように思われたって仕方ないのは理解できる。

 それでも、謝られると巡の方が惨めなように思えてくる。憐れみをかけられているようで。

「……まあ、子供の頃からファンで応援してきているからね」

「へえ、子供の頃から応援しているんですね。確かにそれじゃあ、そう簡単にファンとかやめられないですよね」

「そうそう。ほら、そろそろ仕事して、早いうちに帰ろう」

「はい。って、もう既に早い時間じゃないですけどね」

 それぞれ自席に戻って仕事を再開する。

 巡も切りのいいところで仕事を終えて帰途に就く。家に帰ると既に遅い時間の為、夕は布団に入っている。無理に遅くまで起きている必要はない、それは神門家におけるルールである。

 食事を温めて食べ、風呂に入って疲れた体を癒す。

 湯船につかり、凝りをほぐしながら。

「……ああ、くそっ!」

 軽く、後頭部を壁にぶつけて頭を振る。

 情けなかった。

 ベイスターズのことを言われ、あんなことしか言えなかった自分自身が情けなくて怒りが込み上げてくる。

 昔からの、子供の頃からのファンだというのは嘘ではない。でも、あの言い方だと昔からのファンだから応援をやめられないみたいではないか、

 そうじゃない。

 どんなに弱くなってしまっても、どんなに酷い球団になってしまっても、例え選手達自信がチームを出て行きたいなんて言っているのだとしても、横浜という球団が好きだから応援しているのだ。そう、はっきりと口に出して言えなかった自分が憎らしい。

 確かにチームは弱く、最下位ばかりで光の見えない闇の中にいる。だけど、チームを好きだと口にするのは自分自身の気持ちの問題だ。言えなかったのは、そんなことを言ったら「恥ずかしい」と感じてしまった自分の心の弱さの問題だ。

 もちろん、そんな状態になってしまったベイスターズというチームのせいだというのもある。

「くそぉ、胸を張ってファンだって言わせてくれよ……」

 だから、言いたくないと思いながらも、そんな恨み言が出てしまうのを止めることは出来なかった。

 

その16につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース
4.歓喜の瞬間、そして
5.<過去>暗黒の始まり
6.<過去>悔しさの強さ
7.<CS1st>がっぷり四つ
8.<過去>消えゆく優勝戦士達
9.<過去>2003年、5月
10.<過去>底の底
11.<CS1st>巨人にだって負けていない
12.<過去>束の間の光
13.<CS1st>見たことのない未来に向かって
14.<過去>光ささぬ闇

 

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