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ベイスターズ小説 青き星たちの反撃

【ベイスターズ小説】青き星たちの反撃 17.<CS1st>死闘の幕開け

更新日:

 

 2016年10月10日

 

 CSファーストステージ第3戦

 

 気のせいかもしれないが、1戦目、2戦目よりもファンのボルテージは上がっているように感じられた。それもそうだ、この1戦で広島に行けるか行けないかが決まるのだ。

 入手できたチケットは三塁側内野指定席。ビジター応援席ではないがレフトスタンドに近い場所で、ベイスターズファンが多いことは1戦目、2戦目の経験から予想で来ていたけれど、いざ席に着いて周囲の殆どが青いことに改めて感銘を受ける。

 席に座り、しばらくグラウンドでの練習を眺めていると。

「すみません、前、良いですか?」

 若い女の子が二人、前を通ってゆき夕の隣の席に荷物を置いた。

「うわー、凄い! ドームの半分が青くなっているなんて初めて見た!!」

「そんなに凄いことなの? 2チームあるんだから、半分になるんじゃないの?」

「何言っているの、いつもならドームの9割はオレンジ色のジャイアンツファンで埋まっているのよ。ああ、こんな光景を見られるなんて!」

 興奮している女の子の声が自然と耳に入り、若い子でも同じようなことを思うものなのだなと妙なところで感心する。

「お待たせしました神門さん、腹が減っては戦は出来ぬ、よかったらどうぞ。あ、お姉さん、ビール下さい!」

 買い出しに行っていた永江が戻ってきて、食料と酒を手にグラウンドに目を向ける。

「やばい、なんか武者震いしてきました」

 いつもの試合観戦と違うことを試合前から永江も感じているのだろう、既に興奮しているように感じられた。

「いや、立見席も凄いですね、通路が埋まって通れないですよ」

「あれ、立見も何も、一番前の人以外は絶対に見えないよな」

「それでもいいから現地に来たかったんですよ!」

 たとえ立ち見でも良いからドームで選手を応援したかったのだろう。立ち見でも入れなかった人、あるいはもとからドームではなく横浜で応援しようと考えていたファンは、横浜スタジアムのPVに集まっている。

 多くのファンにとっては初めての、巡にしたって優勝した年以来の大一番の試合なのだ、盛り上がらないわけがない。

「神門さんから聞いていましたけれど、本当にドームが青く染まることなんてあるんですね。それだけベイスターズファンがチケットを買ったんでしょうけれど、ジャイアンツファンは買わなかったんですかね?」

「ジャイアンツはCS出場を逃したことがないし、ベイスターズファンほど凄まじい勢いで買わなかったんじゃない?」

「まあ、こっちは逆に初のCSですからね」

 毎年、優勝を望まれているジャイアンツに対し、最下位ばかりだったベイスターズではファンの熱も異なるのかもしれない。

 とは言っても、ジャイアンツファンだって負けたいわけもなく、勝つために全力で応援してくることに違いはない。

「お、スタメン発表ですかね」

 バックスクリーンに注目が集まる。

 死闘の幕が間もなく開く。

 

 1勝1敗で迎えた第3戦、ベイスターズの先発はシーズン9勝をあげた石田。対する巨人はかつて何度も苦杯を舐めさせられた内海。とはいえ内海もかつてほどの力はなく、十分に勝機はあると思っていた。

 しかし、試合が開始してすぐのことである。

「うそーっ、カジーーーーっ!?」

 夕の隣の席に座っていた女の子が絶叫した。

 試合開始してまだ数分、初回の表のベイスターズの攻撃のこと、梶谷が死球を受けて治療のためベンチに下がったのだが、出てきたのは梶谷ではなく関根だった。

「うそでしょ、いきなりカジがいないなんてっ!?」

 長い髪をお下げにした、まだ高校生くらいにしか見えない女の子は背番号3のユニフォームを着ていた。

 声にこそ出さなかったが、巡も全く同じ思いである。

 攻撃的2番として打撃、走塁で攻撃の要である梶谷を初回から欠いてしまうのは大きな痛手である。守備面では関根でカバーできるかもしれないが、攻撃面でのダウンは避けようがない。

 レフトスタンド、三塁側のベイスターズファンから一斉にブーイングがとぶ。

「ああもう、ブーイングなんてしているんじゃないわよ! 内海みたいに制球力のある投手がわざとぶつけるわけないじゃない!」

 お下げの女の子は、贔屓の選手がぶつけられて退場したにも関わらず、ブーイングをしているベイスターズファンに苛立ちの声をあげた。

「ちょっと、ユノ」

 お下げの女の子の隣にいるショートカットで背の高い女の子が窘めるように言うと、ユノと呼ばれた少女はちらと巡と夕の方に目を向けた。

「あ、すみません、うるさかったですよね」

「いえ、大丈夫です」

 エキサイトはしていたが礼儀正しいようで、お下げを揺らしながら丁寧に頭を下げて謝ってきた。

 いきなり死球で主力が退場するという、一種異様な空気が漂い始めた中、改めて応援に集中した次の瞬間。

「ロペーーーーーーーース!!」

 またしてもユノが両拳を突き上げ絶叫しながら立ち上がった。

 ロペスの一振りは打った瞬間、それと分かる当たりだった。

「うおおおっ、すげえロペス!」

 隣の永江も吠え、もちろん巡も夕も立ち上がる。

 永江、夕とハイタッチをかわし、続いてユノとその連れの少女、さらに前後の席のファンの人と立て続けに手を叩きあわせて喜びを分かち合う。

 ベイスターズファンの拍手と声援の中、悠然とグラウンドを一周するロペス。

「そうそう、怒りは試合にぶつけないとね。見てる、カジ、あたしたちは絶対に勝って、カジも広島に連れていってあげるんだから!」

 ユノがベンチに下がった梶谷に言う。

 三塁側からだと三塁ベンチの中は見えないし、届くわけもない。

 それでも、彼女の声はきっと届いている。

「そうだよ、梶谷……カジ……」

 その言葉に思い浮かんだのは、2015年に他界したかつての球団取締役社長、加地隆雄のことだった。

 社長であると同時に、ベイスターズの一番のファンでありサポーターであった加地隆雄。

 一度は心肺停止になりながらも奇跡の蘇生を果たし、「ベイスターズの優勝をもう一回見るまでは死ねない」と言っていた。

 なんであと2年、待てなかったのか。

 そうすればほら、優勝こそしていないけれどついにCSに出場し、あの東京ドームの半分をベイスターズブルーに染める光景が見られたのに。いや、むしろこの場で一緒に応援をしていたはずなのに。

 今と全く違う、ガラガラの横浜スタジアムのスタンドで、本気で横浜が強くなることを信じて応援していた加地。

 今頃天国で顔をくしゃくしゃにしながらこの試合を見ているだろうか。いや、あの人がベイスターズの重要な試合を見ないはずがない。

 ベイスターズは強くなった、貴方が心から信じたように。まだ道の途中ではあるけれど、本当に変わった。あの史上最弱と揶揄されていたベイスターズはこんなにも強くなった。

 だけど。

「あっ――――」

 阿部の放った打球がドームの宙を舞い、ライトスタンドに着弾する。

 巻き起こる歓声。

 ぐるぐる回るオレンジタオル。

 分かっている、相手はジャイアンツ。シーズン2位のチーム。

 そう簡単に、試合が進むことなんてないことくらい、覚悟していた。

 

その18につづく

 

■バックナンバー
1.歴史と共に、今
2.なぜ、このチームを
3.大洋ホエールズのエース
4.歓喜の瞬間、そして
5.<過去>暗黒の始まり
6.<過去>悔しさの強さ
7.<CS1st>がっぷり四つ
8.<過去>消えゆく優勝戦士達
9.<過去>2003年、5月
10.<過去>底の底
11.<CS1st>巨人にだって負けていない
12.<過去>束の間の光
13.<CS1st>見たことのない未来に向かって
14.<過去>光ささぬ闇
15.<過去>心の弱さ
16.<過去>横浜魂を抱いて

 

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